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島崎 憲司郎
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お客さんからはじめて特注された安中ネット(3)
目をつぶって下さい。私が手渡します。

それからさらに時間がたって、安中ネットさんから待望の連絡があった。
「小板橋さん、注文のランディングネットができ上がりました」
グリップが傷つかないように大切に持ってきてくれた。思ったより小ぶりに見えた。しかし寸法どおりだとのこと。このカリンの紅白の模様と色の出具合はどうだろう。すばらしいと私は思うけれど、それは私ではなく注文者が感じることだ。安中ネットさんは言った。
「これでいらないと言ったら、おれもう絶対許せない」
「だめだったらお店に飾っておけば他の人に売れると思うよ」
すると、安中ネットさんは
「そんなことはしない。自分で使います」
と言い切った。そうとう真剣に作ったことが気迫となって伝わってきた。これを使う人は幸福な人だ。
「10日ぐらいしたら寄ってみるよ」
と言って、安中ネットさんは帰っていった。売れたら電話を下さいと言わないところに彼の覚悟を感じる。私はさっそくTさんの携帯電話にかけた。待ちこがれていたTさんは、出来た感じはどうですか、と、やつぎばやに色々な箇所の仕上がりを私にたずねてくる。
「それより自分で来て確認してくださいよ。私はTさんじゃないんですから。今晩お店はやっていますからお待ちしていますよ」
「じゃあ絶対行きますから」
その日の夜9時過ぎ、いつもの2人で来てくれた。品物をこんなふうにお渡しするお店はないと思います。たいへん申し訳ない。

「安中ネットさんがだいぶ一生懸命作ってくれたんで、悪いんですけど目をつぶって下さい。私が手渡しますから」
どうぞ、と言うとTさんも面白い人で、ネットを受け取ったまま、
「俺まだ目をつぶっているからさ。第一印象どうだい」
と、背の高いほうの人に聞いている。
「ものすごくいいよ」
「ほんとかい。紅白の色は、模様はどうだい」
「ものすごくいいよ」
「ほんとかい。今度は裏返してみてよ。どうだい」
「こっちの面もいいよ」
「ほんとかよ。ネットの櫻色はどうだい」
「悪くないと思うよ」
「ほんとかい。じゃあ、目を開けるよ。・・・うわあ、ほんとに良くできている」

おどろきの声の連続だ。私もこんなに喜んでくれるとは思わなかった。1つや2つ何か言われるかなと思っていた。安中ネットさんがもう注文で作るのはこりごりだと言ったが、それくらいがんばった気持ちがTさんに通じたようだ。私はTさんに聞いてみた。
「安中ネットさんに何かメッセ―ジはありますか」
するとTさん、
「今晩はこのランディングネットを抱いて寝ますとお伝えください」



グリップ材 =  カリンバール紅白・スポルト
フレーム材 =  バーズアイメープル・ウオールナット・ブラックチェリー
         イタヤカリン
手編みネット   =  桜色
Tさん特注品 19,800円+税

アンクルサム(群馬県安中市松井田町/電話027-393-2196)

※「マルタの雑誌」は季刊『フライの雑誌』の読者を対象としたweb投稿企画です。『フライの雑誌』読者なら楽しんでもらえそうと感じたら、フライから話題が離れてしまってもかまいません。ご投稿はinfo@furainozasshi.comまで。
| 中山道の釣り旅  | 16:57 | - | trackbacks(0) |
お客さんからはじめて特注された安中ネット(2)
おれのネットはたいしたことはないのに



もう一人の方が言った。
「俺はカリンの紅白がはっきり出ているグリップのネットを自分でデザインして、安中ネットさんに作ってもらいたい」
「えー、お客さんのデザインでですか。弱ったな。実は本人はネットを作る気力がでないから、もう作らないと言っているんですよ」
「そこのところを小板橋さんのお力で、何とかお願いしてくれませんかね」
「そんなことを言われても、私の力もへったくれもないですよ」
実際のところ、気に入った材料がなかなかないらしい。それがいちばんの問題だ。
「とにかく何年でも待ちます。今度来る時にデザイン画をもって来ますから、宜しくお願いします」
このとき初めて、Tさんというお名前と携帯番号を教えてもらった。

物づくりの大変さを良く分かっているだけに、間に挟まれた私は荷が重い。安中ネットさん本人は、どうせ売れやしないと思っていたのが、結構1本づつ売れていくので、本人もわるくないなと思っているみたいだ。もう作らないと言いつつ、ときどきネットをお店へ追加で持って来てくれる。
「『フライの雑誌』の広告に安中ネットの写真を載せたのが出ているよ」
「どれどれどこに載っている」
「何ページだよ」
「へぇー」
安中さんはしばらく見てから
「小板橋さん、そんなことしなくていいですよ」
と言った。
「『フライの雑誌』のブログっていうやつにも〈中山道の釣り旅〉というのを投稿していて、安中ネットのことを書いてあるから、よかったら見てくれる」
「だからそんなことをしなくていいのに」
と言いつつ、安中さんは次に来た時に、
「小板橋さんあれは褒め過ぎだよ。おれのランディングネットはたいしたことはないのに」
と言った。見てくれたんですね。

こんなのいらないと言われたらどうしよう

「実はあるお客さんが、自分でデザインしたランディングネットを、どうしても安中ネットさんに作ってもらいたいと言って聞かないんだけど、どうにかなりますかね」
「小板橋さん俺プロで食うわけじゃなくて、自分が好きかってに作っているだけだから、そんなのやだよ。そうじゃなくても今たくさん作る気分じゃないんだから」
そのくらいは言われるだろうと思っていたが、お客さんにも何本かお世話になっているしなあ。
「それに小板橋さん、おれもうネットを作らないかも知れないんだぜ」
困ったな。でも最後に安中さんの男気にかけて、言ってみよう。
「実はそのお客さんは、安中ネットを3人の人に紹介してくれて、安中ネットを1人で3本も売ってくれた人なんだけど。どうする」
安中さんはすこしだまって、
「・・・小板橋さんも人が悪いよな。そんなこと言われたら断われねいじゃーねいかい」
やったあ。安中さんは困ったような顔でぶつぶつ言い始めた。
「3本もお世話してくれたんだ。ありがたいな。でもやだな、色々な注文を付けてくるんだろうな。一生懸命1ヶ月ぐらいかかって作り上げたあとで、気にいらないからやだと言われたら、小板橋さんどうするんだよ」
「そういう可能性も0ではないよね。自然のものだから同じものはないからね」
安中さんはしぶい顔をして、
「ずいぶん軽く言ってくれるよ。普通なら作らないよ、今回は特別だ」
「ありがとうございます。そういえば、カリンの紅白がほしいけどほとんど見付からないとお客さんが言っていました。それに釣った魚をいれて写真に撮るとき、右手から紅白の色がはっきり見えているのが良いとか言っていましたよ」
「・・・なんだかほんとにうるさそうな人だな」
「そのうちデザインを持って来ると言っていたから、よろしくね」
「やだな。出来上がってから、こんなのいらないと言われたらやだな」
「気持ちはわかりますよ」
と私は言ったが、本人は上の空のようだった。



それからけっこう月日が経った。何年も待ちますなんて言っていたTさんも、
「小板橋さん、何の連絡もないんだけどどうしたんですかね」
「材料がなかなか見つからないって、Tさんも分かっているじゃあないですか」
さあ、やっぱり大変だ。そうこうしているうちに、安中ネットさんからようやく電話があった。
「小板橋さん、材料が見つかりました」
もう材料を買ってしまった、という。お互いに話してくれた方が分かりやすいので、その場でお客さんの携帯に電話をした。
「小板橋さん、作ってみるけど、やっぱりけっこう難しそうな人みたいだね」
「そこのところをよろしくお願いします」

アンクルサム(群馬県安中市松井田町/電話027-393-2196)

※「マルタの雑誌」は季刊『フライの雑誌』の読者を対象としたweb投稿企画です。『フライの雑誌』読者なら楽しんでもらえそうと感じたら、フライから話題が離れてしまってもかまいません。ご投稿はinfo@furainozasshi.comまで。
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お客さんからはじめて特注された安中ネット(1)
千年を生きた屋久杉でヤマメをすくう



赤城山の方からよく碓氷の渓流に来てくれる釣り人が言った。
「このランデイングネットいいですね。安中ネットなんて、聞いたことがないですけど」
「そうでしょう、最近ご自分で作って持って来てくれたんですよ。だからまだだれも知らないぐらいですよ。今度『フライの雑誌』の広告に写真ごと載ると思うので、あるていど雑誌を見てくれた人だけが安中ネットを知ることになると思います。まだ本数も少ないんですよ」
「このグリップの模様が良いですね。」
「これは屋久島の屋久杉でできているんだそうですよ」
「へぇー、そうなんだ。」
「大きさも渓流のこの辺で釣れるヤマメにちょうどよいでしょう。ネットの色もダークオレンジでヤマメの写真を撮るときに映えるでしょうね」
つづけて私がとっさに言った言葉が、もしかしたらお客さんの背中を押してしまったかもしれない。
「自然の中でフライフィシングをしながら、屋久島の千年以上の時間を背負ったランデイングネットが自分の背中で揺れていると想像してみてください。千年を超える時間を生きてきた屋久杉で、今の時代に自分の手でヤマメをすくうなんていい気持ちじゃないですか」
お客さんはすぐに言った。
「このランディングネットを私にください」
「え、いいんですか。どうもありがとうございます」
そんな感じで安中ネットの第1号は売れました。

いつも遅い時間にお店へ来てくれる二人組がいる。前に並木さんと白戸さんのバンブーロッドを1本づつ買って頂いている。背の高いほうの方が安中ネットを見て、
「カリンの紅白がグリップへきれいに出ている。これ気に入った。この金額でこの具合ならいいよな」
と友達に聞いている。その友達は、
「俺も欲しいぐらいだけど、もうすこし小さいほうがいい」
そうすると背の高い人が
「じゃ俺が買っちゃうよ」
いつも値のはる物を買ってくれるので、それとなくお名前を聞いた。
「大丈夫だよ怪しい者じゃないから。松井田にオーツカヤってスーパーがあるだろう。そのオーツカと友達だから」
「ああそうなんですか、あのオーツカさんとね」
釣具屋をやっていても、意外とお客さんの名前を教えて貰えないことも多いんです。この方には何回か他の友達を連れてきてもらっている。
「こういうお店はあまり人に教えたくない店なんだよな」
と言いながら、フライだけじゃなくルアーの人も連れてきて、3人の人がランディングネットを買ってくれた。相乗効果で安中ネットはもちろん、並木さんのネットや工房ひわたりさんのネットも売れた。大変有難いお客さんだ。

アンクルサム(群馬県安中市松井田町/電話027-393-2196)

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べっぴん先生に会った(2)
「ちょっと、水量がどのくらいかを見たりしているんです。さっきライズがありましたよ」
いけない。ライズなんて言っても分からないな。
「そこで魚が跳ねていましたよ」
と言うと、今度は彼女が
「今キングフィッシャーが上流に飛んで行きました」
と言った。それを双眼鏡で必死に追っていたようだ。「どちらから来たんですか」と聞かれた。

「じつは私は釣具屋です。地元松井田です」
「へえ、釣具屋さんですか」
「でも日本の釣りではなくて外国の釣りです。ルアーはやっていません」
「では、あのムチみたいなやつですか」
「そうそう、振っているやつです」
よくよく見るとずいぶんべっぴんさんだ。ちょうど橋の前たもとに小さな小学校がある。
「ここの職員なんです」と言われた。
「この間、テレビが入学式の撮影に来ましたよ。この小学校は群馬県で1番生徒の人数が少ない学校なんです。全校で10人しかいないんです」
国道18号線から15分もかからない場所にあるのに、どうして群馬県で1番生徒の少ない小学校なのか納得がいかなかった。私は
「生徒の人数が少なくても、大変なところもあるけど良いところもありますよね」
と言ったが、これって慰めているつもりなのかな。

「松井田なら私、松井田第一小学校に勤めたことがあります」
先生は安中の生まれだと言った。
「あ、小さいライズがあそこでありました」
と私が言うと、双眼鏡でのぞいて、右手の親指と人差し指を広げて5cmぐらいのが沢山いますよと言った。私には遠いので見えないが、この先生はよく気づくんだなと思った。先生があまりにべっぴんさんなので、先生は全然釣りになんか関係ないのに、いやらしいと思いながら、お店の名刺を渡していた。先生は
「ぜひ時間ができたら寄らしてもらいます」
と言ってくれた。
「じゃあ、どうも失礼します」
と、先生は駆け出すでもなく、学校の方に消えていった。腕時計を見ると午前11時2分で、もしかすると授業の時間を過ぎてしまったのかな。わるいことをした。

私のお店の近くにある小学校も、今年の新一年生はたった20人足らずしかいない。これから先、日本はどうなるのかな。べっぴん先生が、もし私のお店に来てくれたらうれしい。でも、先生は鳥好きのようだから、キングフィッシャーやほかの鳥のコンプリートを見たらショックを受けるだろうか。申し訳ないですね。

アンクルサム(群馬県安中市松井田町)
| 中山道の釣り旅  | 15:57 | - | trackbacks(0) |
べっぴん先生に会った(1)
ある日の朝早く、埼玉からお客さんが来てくれた。「小板橋さんおはようございます。営業時間前にすみません」

「いいえいいえ、どうもお久しぶりですね」
「これから渓流に行ってみようと思います。日釣り券を1枚下さい。どこか良いポイントはありますか」
「今年は雪かきも1回ぐらいで、雨も全然降らないので渓流もお水が少ないんですよ。だからせっかく日釣り券を買って貰っても自信を持ってここのポイントがおすすめと言えるところが少なくて。釣れるかどうか分からないですけど、M川なんかどうですか。あまり大きいヤマメはいませんが、遊べるかもしれません」
「そうですか。あ、そうそう小板橋さん、東京タワーの話、読みましたよ」
「ほとんど釣りの話がなくてすみませんね」
「いやいや軽井沢の湯川で魚が復活した、というのは、よい釣りの話じゃないですか」
「あれも大きい魚が釣れたということではないですよ」
「いやいや湯川が復活した、ということが情報ですから」
「そうなんですかねえ」
「そうですよ。では行ってきます。帰りにまた寄りますから」
「じゃあ、待ってますね」

その日の夕方、埼玉のお客さんが約束通りお店に寄ってくれた。
「小板橋さん楽しめましたよ」
「どうでしたか」
「M川で18cmぐらいのヤマメが1匹釣れました。他にも出たのですが、釣れたのはその1匹だけです」
「お水の量はどうでしたか」
「少なかったです。T橋の上流に入りました。あそこは二手に分かれているでしょう。上流に向かって左側は水が流れていませんでした。だから右側を釣りあがりました。そこで黒くかたまりになっている稚魚をたくさん見つけました。うまく大きくなるといいですね」
「そんなところに稚魚がいましたか」
「とにかく充分楽しめました。そうそう、小板橋さんちはもうどこのお店にもないフックがまだ置いてあるから助かります。もうこのフックはないですか」
「残念ながらそれが最後です」
「でも助かります。これから桐生に釣りに行ってきます」
このお客さんはもう60歳を過ぎているのにものすごいパワーだ。私も見習いたい。


次の日、さっそく私もM川に行ってみた。やはり左側は水が流れていなかった。せっかくだからこの辺の渓流を見ていくか、と思って、橋の左側に車を止めて川をのぞきこもうとした。すると、橋に若い女性が立っていて、高価そうな小型の双眼鏡をかまえて上流側を見ている。
これはまずい。私は平日の昼間に川をのぞき込んでいるヒゲを生やしたむさ苦しい50男である。変な人だと思われたら困る。
とっさに下流側の方へ移動して、視線をそらしていたら、18cmぐらいの魚がライズした。
「あ、ライズした」
思わず声が出たら、
「良い天気ですね」
その若い女性がいつのまに私に近づいていて、声をかけてきたのでびっくりした。
「なにしているんですか?」

アンクルサム(群馬県安中市松井田町)
| 中山道の釣り旅  | 15:51 | - | trackbacks(0) |
新聞紙に包まれて来たバンブーロッド(2)
お店辞めてしまったんですか?



「小板橋さん昨日何回も電話したんですけど、出ませんでした。こんな御時世だから、お店辞めてしまったのかなと思ってしまいましたよ。」
「茂木さん、それは申し訳なかったですね。でもお店やっていますから、電話が出ないと言うことぐらいでお店潰さないで下さい。お願いしますよ。じつは◯◯漁協に鑑札を買いに出かけていました。信じられないかも知れませんが、先に現金を持って行かないと、お客さんへ売るための鑑札を売ってくれないんですよ。半日仕事になってしまうんです。だから色々な人に迷惑をかけてしまいます。」
「これからお店に行って良いですか。」
「はい絶対待っています。ところでグットタイミング。実は茂木さんのロッドが2日前に売れましたよ。」
「ほんとですか。」
「ほんとです。帰りに代金を持ってかえって下さい。」
「これからすぐに行きますよ、小板橋さん。」

最初の電話の威勢はどこにいったのか、なんだかとても嬉しそうな声だった。
「小板橋さん。何本か新しく完成したバンブーロッドを持っていきます。」
「ありがとうございます。お持ちしています。」
それからしばらくして、茂木さんがバンブーロッドが入っていると思われる。新聞紙を丸めて持ってきた。見た感じは1本かなと思ったが、茂木さんが新聞紙をひろげ始めるとなんと手品を見ているようで、ゴロゴロ茂木バンブーロッドが何と5本も出てきた。
「小板橋さん、悪いけど袋は付いていないんです。なにか安い袋でも買って貰うしかないんですけど、しょうがないですよね。」
「かまわないですよ。ではこれから検品させてもらいます。」

5本もまとめて持ってきてくれるなんて



「茂木さん、相変わらずリールシートはこだわっていますね。
「リールシートは自分で色々な木を探すのが好きですから、その気持ちが出ていますよ。フェルールなどは自分では作りません。」
「そうですか、人それぞれですからね。それだけ他に集中できますものね。」

やはりどなたも検品してもらう間は気になるようで、お店の中で何かほかのものを見て待っていてくれるのだが、何となく落ち着かないように見える。茂木さんは今までなかなか5本もまとめてバンブーロッドを持ってくることはなかったのに、どういう心境の変化だろう。
茂木さんはまだ何本も私のお店に出してくれてはいないが、出来るだけ本数が多い方が人目に付きますよと来るたびにそれとなく言っていたので、今回5本も持って来てくれたのかな。それとも今年も東京のバンブーロッドの展示会を見に行ったそうだから、自分のバンブーロッドにも自信がついたのかな。

良いんですか、と再度たずねてOKならそれで決まり



私のお店にならべるバンブーロッドは、バンブーロッドビルダーさんが値段を決めます。私が、高いとか安いとは余分なことは決して言いませんが、念だけは押します。ビルダーさんが自分で言った金額を、その金額で良いんですね、と再度たずねて本人がOKなら、それで決定です。
茂木さんはまだ自分で金額をつけるのは難しいと思っているのか、
「他の人も金額が安いので25,000円で良いですよ。」
と言う。
「茂木さんそれではパーツ代も出ないのではないですか。見に来た人が金額が間違っていると思って、目をこすりますよ。良いんですか。」
「かまわないです。」

通信販売はやっていませんので、ぜひ見に来てやってください。どれだけの品物かご判断をよろしくお願いします。さっそくお店の裏でデジカメで写真を撮り、1本1本ディスプレーした。お客様が来られたときに、いくつの〝ヘェー〟が聞かれるか楽しみだ。

茂木バンブーロッド
① #3.7‘6“  税込み25,000円  (トンキンケーン)
② #3.7‘3“  税込み25,000円  (トンキンケーン)
③ #3.7‘3“  税込み25,000円  (トンキンケーン)
④ #3.7‘3“  税込み25,000円  (トンキンケーン)
⑤ #4.7‘6“  税込み25,000円  (トンキンケーン)
全部袋なし

アンクルサム(群馬県安中市松井田町/電話027-393-2196)

※「マルタの雑誌」は季刊『フライの雑誌』の読者を対象としたweb投稿企画です。テーマはフリーです。『フライの雑誌』読者なら楽しんでもらえそうと感じたら、フライから話題が離れてしまってもかまいません。ご投稿はinfo@furainozasshi.comまで。多くの方からの投稿を大歓迎します。
| 中山道の釣り旅  | 07:38 | - | - |
新聞紙に包まれて来たバンブーロッド(1)
振ってみて、う〜ん。。。

お店に来てくれるといつも、バンブーロッドのウインドウの前で、しっかりバンブーロッドを見ているお客さんがいる。今日は「バンブーロッドを見たいのでウインドウを開けてくれますか。」と声をかけてくれた。は、はい今鍵を持ってきます。



お客さんが狭い通路でバンブーロッドをつなげようとした。できたらお店の外で振ってもらった方が好きなだけ振ることができますよ、と言うと、さっそく外に行き振ってくれている。これはどちらのバンブーロッドですか。レインボーシーカーさんの#4・7フィート6インチです。どうですか。いいですね。やはり第一印象が肝心ですね。小板橋さん、もう1本振らして下さい。どうぞどうぞ、とまた外で振ってもらう。

小板橋さん、これもいいですね。どちらのバンブーロッドですか。茂木ロッドの#3・7フィート6インチです。それってリールシートがいいでしょう。トチの縮みで大変きれいでしょ。ほんとですね。それにスレッドが透明できれいに巻いてある。透明なスレッドをきれいに巻くのは、難しいのですよ。ごまかしが効かないんですね。

小板橋さん、さっきのバンブーロッドをもう一度持って来て比べて良いですか。どうぞどうぞ。お客さんは、振ってみて、う〜ん、とうなっている。

「小板橋さん、2本下さい。」
私はまさか、2本も買ってくれるとは申しわけないが思っていなかったので、びっくりした。内心動揺していたが、うれしい話だ。つい、
「いいんですか。」
なんて、頭で考えるよりもう言葉が出ていた。
「ええ。以前うかがったときに8万円ぐらいのバンブーロッドもありましたから、そのくらいの予算でいましたが、今日振らせてもらったら2本とも良いバンブーロッドなので。少し予算より出てしまいましたが結構です。」

元気良くいきましょう!


お客さんはつづけていった。
「私も外国の有名なバンブーロッドを何本か振るチャンスがあり振らせてもらいました。私にはずいぶん硬く感じて、この近辺の渓流で、18cmから25cmぐらいの魚を釣るのには、今日の2本の方が自分にはあっていると思います。レインボーシーカーさんが48,000円で、茂木ロッドが40,000円で、合わせると予算オーバーしてしまいましたが、こんな良いバンブーロッドが2本もこんな金額で買えれば私は満足です。」
さらに続けて、
「最近、世の中皆んな縮こまっていますよね。小板橋さん、ぱぁーと元気良くいきましょう!」

私もこんなに近くに、こんな元気の良い若い人がいるとは頼もしい限りだ。ところでなにかあった時は、修理の方は大丈夫ですか。変な話、ロッドビルダーが生きている限り、大丈夫ですよ。帰り際にお客さんは、
「友だちに2本買ったと言っておきますよ。すぐ飛んで来ると思いますけどね。」
そのお友達は白戸ロッドを使っている。今日来てくれたお客さんも、友達の白戸ロッドを使わせてもらったと話してくれた。友達の繋がりはやはり釣りに限らず良いもんだし、大切だなと思えた日だった。



そんなことがあった2日後、お店の電話が鳴った。出て見ると茂木ロッドの茂木さんだ。なんだか少し、怒っているような声に聞こえた。


アンクルサム(群馬県安中市松井田町/電話027-393-2196)

※「マルタの雑誌」は季刊『フライの雑誌』の読者を対象としたweb投稿企画です。テーマはフリーです。『フライの雑誌』読者なら楽しんでもらえそうと感じたら、フライから話題が離れてしまってもかまいません。ご投稿はinfo@furainozasshi.comまで。多くの方からの投稿を大歓迎します。
| マルタの雑誌 | 10:40 | - | - |
「マルタの雑誌」について
●「マルタの雑誌」は季刊『フライの雑誌』の読者を対象としたweb投稿企画です。

●多摩川マルタ遡上の情報交換から始まったのでこんな名前になっています。その後テーマフリーになったものの、名前だけ残っています。

●フライから話題が離れてしまってもかまいません。『フライの雑誌』読者なら楽しんでもらえると思います。

●ご投稿はinfo@furainozasshi.comまで。多くの方からの投稿を大歓迎します。
| マルタの雑誌 | 17:49 | - | - |
中山道の住人、東京タワーへ行く。(3)


なんとか表示を見ると、あと100段とある。左右にやっと薄い壁のようなものがでてきた。そうして、ようやく高低差150m、階段600段を昇りきった。すると上で待っていた東京タワーの女の人が、昇り階段認定証を私にくれた。認定番号594176。腕時計を見ると、約14分かかっていた。

なんともいえない初夢が

次の難関は高所恐怖症の私が、大展望台から素直に下を見ることができるかどうかだ。すこし落着いてきたので、おそるおそる人と人のあいだから、まずは遠くを眺めた。するとなんと、富士山が見えた。それも夕焼けの富士山だ。テレビで見るどっしりとした富士山ではなく、斜めに傾斜して突き出ている感じの頂上だった。さっきまでのあの恐怖感を味わった後だけに、神様が御褒美に正月からこんなに素晴らしい夕焼けの富士山を見せてくれたのかな、と思った。

今度はおそるおそる目線を下にすると、これもテレビでよく見る、六本木ヒルズの建物が分かった。だんだん慣れてきて、気がつくと展望台の中を何周したか分からないぐらい巡り、デジカメで素晴らしい都内のパノラマを撮っていた。じきに、暗くなり始めた。するとデジカメのフラッシュがガラスに反射してうまく撮れない。これは写真ではなく、自分の目でしっかり見ておきなさい、という意味なのかなと思い直して、目に力を入れて、脳みそにパノラマを叩きこんだ。それにしても、雲一つない夕焼けの富士山が見られたなんて2009年は調子が良すぎる。気をつけて行こう。

下りは、エレベーターであっというまに一階へ着いてしまった。私が味わった恐怖の14分間はなんだったのだろう。しばらく売店を見て回り外に出ると、あの人ごみや長蛇の列はもうどこにもない。プロレスラーのような体格の男の人も、野太い声もない。ただひんやりした風が吹き、ライトアップされた東京タワーのオレンジ色が、暗いなかで私の目にやさしく微笑んでいるようだった。

ここは東京のまんなか、東京タワーの真下だが、キツネにだまされたような、なんとも言えない初夢を見させてもらった気持ちになった。さあ、中山道へ帰ろう。



アンクルサム(群馬県安中市松井田町/電話027-393-2196)
| 中山道の釣り旅  | 12:59 | - | - |
中山道の住人、東京タワーへ行く。(2)


「お母さん、階段が揺れているね。」

階段の入口に来たら、今度は針金のような体格の男の人が、大展望台への直通外階段を案内してくれた。プロレスラーのようなプラカードの人は、一緒に昇ってくれるのではなかったのか。入口までとはそりゃないよ。急に心細くなった。これから昇る外階段を見ると、なんと大人2人が並んで、肩があたるほどの狭さだ。こんな狭いオレンジ色の階段を、600段も昇るのか。

東京へ来る前の日に、姉へ送るために自宅の庭になっているみかんを全部とった。みかんをとるために、1メートル80センチぐらいのブロック塀へ久し振りによじ登り、塀の上に立ってみた。するとふらふらと、目眩のような感覚に陥った。こんな高さで目眩とは、そうだ、私は高所恐怖症だったんだ、と思い出した。さらに3日後、こんなに恐怖を感じる事態が待ち受けているとは、その時はゆめゆめ思わなかった。

グルグル回るように狭い階段を上がっていくと、下の方から子供が、「お母さん、階段の階数が書いてあるね。」と言うのが聞えた。が、そのときもう私の目は階段の足下しか見られない状態になっていた。300段ぐらいに来たところで、子供がまた、「お母さん、階段が揺れているよ。」と言った。子供の声が私の恐怖感をものすごくあおる。お母さんが子供に、「高くなってきたから風も強くなって来たでしょう。」と答えた。私は聞きたくないのに耳が聞いてしまう。どんどん体が硬直していくのがダイレクトに分かる。どうしよう。

階段の周りは鉄パイプと金網だけで、風よけはほとんどない。大変恥ずかしいが、このままだと自分の体が宙に浮いて下に落ちてしまうのではないかと、私の左手は手すりパイプをギュと握り締めていた。この手を離したらどうなってしまうのだろう。すると今度は、べつの若い女の子が「やっぱり揺れているよね。」と言った。もうだめだ。


アンクルサム(群馬県安中市松井田町/電話027-393-2196)
| 中山道の釣り旅  | 11:22 | - | - |
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