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島崎 憲司郎
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真竹と門松(2)
来るモノは拒まず?

そもそも、来るモノは拒まずなんてかっこいい事を言ってしまったが、ただ単に、断れなかっただけではないか。自分に対して腹が立つ。しかしここで奮い立つのが私の性格のようだ。何だか分からないが、私の中に分からないことは全部知りたいという欲望のような思いが芽生えて来るのである。つまりけっこうしつこいのだ。

私は普段へなへなしている感じなのか、皆さんにはそんなふうに見えないと言われる。私の良いところと言うのも変な言い方だが、自分が思っているほど他人様は私をしつこいと思っていないのかもと思い込めるところが、凄いところなのかもしれない。

そんな話より、皆さんが善意で持って来てくれたこの真竹が問題だ。何人かの人に真竹の扱いを聞くと、それぞれの人がそれぞれのことを々と教えてくれる。私のお店から約1キロ上(かみ)に、手先が器用で、ワラの一種で馬や宝船や鳥や門松を作ったり、人に作り方を教えたりしている小崎さんがいる。それを思いだしたときは、もう私の足は小崎さんの家に向かっていた。

こんな凄い手作業を



その日は良い感じの日だまりの中、小崎さんは家の前で仲間の清水さんと何かを作っているようだ。年配の人が一人それを見物していた。小崎さんこんにちは。
「おうー。どうも、なんだやー」
何を作っているんですか。
「これか、門松の下の入れ物の部分だ。うちは菊をやっているだんべー。だからその鉢を使うのさ。他の人は大きい缶を使ったりしているけどね。」

とにかく小崎さんと清水さんの手際が良い。まるで大量生産の機械のように指先が動いて、どんどん仕事がはかどる。見ている方がほれぼれしてくる。あっというまに、昔のベーゴマの台の様な感じの、素晴しい網目模様の台がきちんとできている。二人の息がピッタリで何も声など出さなくても、次から次と手際良く進む。こんな現場を見るのは初めてだ。真竹を持って来てくれたお客さん三人のお陰で、こんな凄い手作業をタイミングよくみることが出来た。私にはものすごく幸せな時間が流れている。



うまいこと言うな

とても上手く出来ていますねと声をかけた。すると清水さんが
「昔の俵のふたの編み方と同じだよ」
小崎さんが
「小板橋君は何しに来たんだや」
すいません。皆さんの手際の良さにみとれて自分が何しに来たのかも忘れてました。
「小板橋君うまいこと言うな」
いやほんとです。一瞬間が空いて、小崎さんが
「そうだんべー。なかなかここまで編める技術者はこの辺では何人もいないよ」
と、さりげなく言った。



実はお店に真竹を持って来てくれた人がいて、油抜きというのをしなければならないらしいんです。火を使わない方法はないかと小崎さんのお知恵を拝借しようと思って寄ったわけなんですけど。
「そうさあな〜。やっぱり油抜きは火を使う事になるんじゃねいかあ」
やっぱりそうですか。
「今度、門松用の竹を切るから見に来るかい」

数日して、西松井田駅の近くの小さい公園で待ち合わせをした。てっきり山へ切り出しに行くと思っていたので、足手まといにならないように山支度で行くと、もう3人の男の人がベンチでタバコを吸いながら私を待っていた。
どうも一番若いのに一番遅くなってすいませんと言うと、小崎さんが
「自分も今来たところだから遅くはねいよ」
どこへ行くのかなと思っていたら
「ここの家で竹を切るんだ。もう竹は切り出してあって、後は斜めに切るだけなんだよ」



アンクルサム(群馬県安中市松井田町/電話027-393-2196)

※「マルタの雑誌」は季刊『フライの雑誌』の読者を対象としたweb投稿企画です。ご投稿はinfo@furainozasshi.comまで。
| 中山道の釣り旅  | 15:53 | - | trackbacks(0) |
真竹と門松(1)
埼玉のお客さんから電話があり「庭の真竹を切るんだけど使いますか」と言われた。



とりあえず5本ばかり持って行きます

「お店のバンブーロッドコーナーの上に竹が何本も吊るしてあるのをいつも見ていて気になっていたので、もしよかったらと思って電話をしてみたんだけど」
という。
「あれはトンキンケーンと言って中国の竹で日本の真竹ではないんですよ」
と私が言うと、お客さんもそれは分かっているようだ。

「もちろん真竹でもバンブーロッドを作れるんですけどね」
「じゃあ使いますか。切ったそのままではだめで色々やることがあるみたいです。私はやったことがないのでよく分からないのですが。とりあえず5本ばかり切って近い内に持って行きますよ」
「あのう、正直埼玉から真竹を持って来てくれても買うわけにもいかないし、お礼をと思っても困ってしまいます」
「そんなことは心配しなくて良いんですよ」
「そうですか。私は来る物は拒まずの精神ですが」
「じゃあ近い内に軽トラで持って行きます」
「ほんとに何も出ないですよ」

油抜きをして下さいね

それから何日かしてもう一度電話があった。
「真竹を約4メートルに切ったやつを5本、これから持って出かけます」

軽トラで持ってきてくれた真竹を見ると、お客さんの性格が良く出ていて、竹が傷つかない様に布団でうまく止めてある。
「せっかく2人いるんですから今の内に何処に真竹を運ぶのか言って下さい」
とまで言ってくれた。お陰様で助かりました。

私が思っていたのよりは良い感じの真竹だった。約7cmぐらいの直径で、だいたいそのサイズを選んで切って持ってきてくれたようだ。
「竹を切り出すのは12月ではもう遅かったかもしれない。切ったときに真竹からお水が出ていました。虫に食われない様に油抜きをして下さいね」
と言ってお客さんは帰って行った。狭い通路がますます狭くなった。



俺んちのはふていだんべー。

それから暫くして、近くのお客さんが寄ってくれた。
「ずいぶん長いものが置いてあるね」
「そうなんです。埼玉からわざわざ5本も軽トラで持って来てくれたんです」
「なに、埼玉からかい。御苦労さんだね」
そうしたら次の日、今度はそのお客さんがまたやって来て、
「俺んちの真竹を持って来た」
と言う。そこの車の中に積んであるという。

私がいるいらないと言う前に、
「俺んちのは短いけどふていだんべー。年数もはっきりしていて3年物だ。2メーター60センチで直径が10cmもある」

うちのは6年物だ

そういうときは不思議と真竹が集まるもので、年も押し迫った12月30日の朝、今度は軽井沢のお客さんから電話があった。
「これから1メートル80センチの真竹を3本持って行きますよ」

「エー、実は2人のお客さんから真竹を何本か貰ったところで、通路が狭くて大変なんですよ。それに切ったばかりでまだ青いんですよ」
「うちのは6年物でもう白い感じだからさ。いま暇だからこれから持って行くから」

やはり軽トラで持って来てくれた。荷台を覗きこむと、白っぽい真竹が3本無雑作に転がっていた。軽井沢のお客さんはお店に入ってくると埼玉の真竹を見てすかさず、「埼玉より軽井沢の方が寒いせいか、肉薄だね」と言った。

軽井沢のお客さんは荷台からエサ釣り用の丸竹の5本つなぎ、4本つなぎ竿と、フライ用バンブーロッドの#6、8‘0“ぐらいのを取りだしてきた。外で振ってみて下さいと言うので、まず5本つなぎの竿をつないでもらった。

約5メートルくらいもあるその丸竹竿を私は片手で、フライ・キャステイングのように振っていたようだ。お客さんが
「小板橋さん、それ5メートルもある。きちんと二本の腕で握って下さいよ」
と言った。私はもう何十年と餌釣りの竿を握っていなかったので、お客さんに言われるまで、まったく気が付かなかった。



軽井沢のお客さんは
「エサ釣り用の丸竹の2本は置いて行くから、今年ぜひ使ってみて下さい」
と言う。そして車の中から何かビニール袋を持って来て、
「これリンゴ」
と渡してくれ、お茶の一杯も飲まないで軽井沢に帰って行った。

恥ずかしいが私のお店ではお客さんに飲み物や椅子などの用意はしていない。でも私の気持ちはほんとにありがたいと思っている。その気持ちをどんなお客さんにも一生懸命お店の中でぶつけているつもりです。

さて、どういうわけか真竹がずいぶん集まってしまった。とにかく初めてのことなので、だれか竹についてくわしい人に聞いてみることにした。(つづく)


アンクルサム(群馬県安中市松井田町/電話027-393-2196)

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| 中山道の釣り旅  | 12:30 | - | trackbacks(0) |
「親心4」
1月9日午後、放流仲間の一人、自称「見守り隊」の車が谷の入り口にとめてあった。二、三時間もすれば稚魚の成育具合などを知らせるメールが入るだろう。

やがて、

「水位が落ちてボックスが心配でしたが、異常はありませんでした。稚魚達のエッグサクもほとんどなくなったようですが、水温が4℃なので、冬眠状態?です。またしばらくして、確認に来ます。では」

厳寒の谷川にいる彼に感謝し、了解、了解。

 前にも書いたが、発眼卵放流に使った孵化器はバイバートボックスではない。100円ショップで売られている普通の虫かごである。これに孵化した魚が留まるよう内部に少々細工をして川底に沈めた。ある程度成長した段階で外に魚を出さなければならないなどから、仲間が定期的に観察しているのである。

報告によると、魚の数に変化もなく、順調に育っているという。春よ、来い。



| - | 21:22 | - | trackbacks(0) |
「親心3」
仲間から再び携帯メール。「水温9度。水位下がっているが問題なし。ボックスから外に出ている稚魚がいないかと周辺を観察するが確認できず。内部に留まっている稚魚のほうは大分腹が小さくなり、来週あたりには浮上して泳ぎだしそう」。送られてきた稚魚の画像を見ると、小さくてシラスを連想させるが、他の部位と比べて異様に頭部が大きく、アンバランスな体型である。



発眼卵放流というと、経過観察などは行わずに、河床にセットした孵化器を大概は春先までそのままの状態にしておくのが通例だという。発眼卵放流を何度も実施している人たちから見れば失笑ものだろうが、しかし、私たちは気になって気になってしかたがないのだからしようがない。

ところで、我が自宅前に加治丘陵と呼ばれる山が東西に伸びている。東端は埼玉県入間市、西端は東京都青梅市で、標高の一番高いところでも200メートルほどの小高い丘の連なりである。幼い時分は、この丘陵にもぐりこみ、クヌギの林でカブトムシを採ったり、ターザンごっこをしたりして随分と遊んだものだ。丘陵にはまた、サワガニやアブラハヤがいる小さな小さな沢が幾筋かある。

つい最近、そのとある沢でヤマメの姿を見た。流れを遮断するかのように築かれた砂防堰堤下の渕で、黒い影となって走るのを捉えた。それ以上に、堆積した落ち葉の上でじっと定位しているのをはっきりとこの目で見た。近眼と老眼が入り混じり、白眼の白濁化に拍車がかかるが、自慢ではないが釣り師としての目は誰にも負けない。

その日を境に気になってしようがない。というか、自制心を上回りそうなもう一つの何かがひたすら湧き上がってきて、私は穏やかではないのだ。



小島満也(埼玉県飯能市)
| - | 21:07 | - | trackbacks(0) |
滋賀県から電話があった
夜、お店の電話が鳴った。
「土曜日はお店やっていますか」
「はい。やっています。大丈夫です。どちらからお見えになるんですか」
「滋賀県です。3番で7フィート6インチのバンブーロッドはありますか」
「ありますよ。でも番手の感じ方は人それぞれですから、ご自分で確認するのが一番ですよ」
「3万円ぐらいのバンブーロッドはありますか」
「トンキンケーンと真竹と女竹と紋竹と丸竹といろいろあります。6角もあれば5角も4角もありますよ。でも何10万円というようなバンブーロッドは置いてありません」
「5時間ぐらいで行けますか」
「京都から車で来てくれたお客さんは7時間かかったと言っていましたよ。朝に京都をでて午後2時くらいに松井田へ着いたそうです」
「じゃあ私もそのくらいの時間には行きます」
「お店の場所は分かりますか」
「はい大丈夫です。もうアンクルサムさんの顔も知っています。インターネットで見たんです」
「ええっ、私の禿頭を見たんですか。恥ずかしいなあ。じゃあお待ちしています」



京都から7時間かけて白戸ロッドの真竹3番7フィートを買いに来てくれた方がいた。私は恥ずかしいが、お客さんが京都から来てくれると聞いた前の晩は、緊張してあまりよく眠れなかった。ほんとはこんなことを書いてはいけないと分かっているんですが、皆さん遠い所からこんな田舎のフライシヨップへ来てくれるのでつい書きたくなった。来てくれたお客様どうもすいません。それが今度は滋賀県からだという。また緊張して眠れないかもしれない。
その日、午後2時ごろ来てくれると言うので、私は午後2時前からお店の入口に立って、滋賀県ナンバーの車が通るかなと、ずっと外を見ていた。
前の床屋の倅が、お客もいないのになんで立っているんだ、と言う感じで私をちょくちょく見ていた。午後3時を回ったころにさすがに裏へ引っ込んだ。すると30分もしない内にお店のガラス戸を開けて入って来た人がいる。
「滋賀県の人ですか」
と聞くと
「そうです」
と言った。外の車を見ると、もう1人の人が運転席にいた。ああ、2人で来てくれたんだ。



「どうもどうも御苦労さまでしたね」
「いやあ、10時間もかかっちゃいました」
「3連休の頭ですものね」
「バンブーロッドはどこにあるんですか」
「狭いんですけど、奥の方にありますよ」
2人は一目散にバンブーロッドのコーナーへ駆け込んだ。聞くと、滋賀県にはなかなかフライショップがないんだという。最近になって初めて『フライの雑誌』を買って、私のお店のことを知ったのだと言う。

じっくり時間をかけてバンブーロッドを見ていてくれる。釣り人の2人連れは面白いもので、意外と性格が正反対の場合が多い。このお客さん2人も、私には性格が全然違うように見えた。1人のお客さんは積極的で、何かと私に話しかけてくる。
「バンブーロッドを何本か振らせてもらっていいですか」
せっかく滋賀県から来てくれたのに、微妙に小雨が降っていた。私はなんとか外で振らせてあげたいと左手と頭を外に出し、上目づかいに空をあおいだが、左手と顔に雨粒がぽたぽたと当るのが分かる。しかたなく狭いお店の中で、2本ばかり振った。
でも10時間もかけて滋賀県から来てくれたのだから、何とか外で振らせてあげたい。私の気持ちが通じたのか、そのうち、入口のガラスに雨粒らしきものが見えなくなった。一気に入口を開けて飛び出すと、体に雨粒が感じられない。やった。お客さんに
「外でどうぞ!」
と力のはいった声を掛けた。お客さんも嬉しそうだ。



もう1人のお客さんは外で振る感じはなく、真剣にバンブーロッドとにらめっこをしている。もう1人のお客さんはもう7本目を表で振り始めている。特に真竹がどんな感覚なのか分からないため、試しているようだ。
もう1人の人は並木ロッドの3/4番7フィート1インチを初めて外で振って、すぐ並木ロッドに決めたようだ。他にも振らせてもらえよと友達に言われてしようがなく振って、やっぱり並木さんだと言う感じで、また奥のバンブーロッドを一生懸命見ている。
もう1人の人は7本からどれにしてよいか、長いこと迷っている。しばらくして、私にそのうちの2本のバンブーロッドをかたづけてくださいと言った。どうもあれこれ目に入ると決まらないらしい。それからまた全部の竿を振って、やっと茂木ロッドの3/4番7フィート3インチに決めてくれた。悩みから解放されてずい分満足そうな顔をしていた。

2人のお客さんの性格の違いが大変興味深かった。こんな感じだからかえって息が合うのだろう。2人でじっくりとお店の中を見てくれて、ロッドの他に、滋賀にないんだというマテリアルなどを買ってくれた。私がつい、
「滋賀から10時間も運転して来たのでは大変でしたでしょう」
と水を向けると、よく話をしてくれる人が、
「俺がほとんど運転して来たんですよ」
と言った。すかさずもう1人のおとなしい人が
「いや、俺の方が多く運転して来た」
と言いだして、私は弱ってしまった。



あっというまにもう午後6時近くになった。よく話をしてくれる人が私の耳の近くで、
「家に着くのが明日になってしまいますよ」
と小声で言った。心の底から頭を下げたら、またまた嬉しくなる返事が返って来た。
「来年また来ます。今度は8時間ぐらいで着くと思いますから」



アンクルサム(群馬県安中市松井田町/電話027-393-2196)

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| 中山道の釣り旅  | 21:02 | - | trackbacks(0) |
「親心2」
放流からちょうど2週間目、「ヤマメが孵化した」と仲間から画像添付の携帯メールが届いた。画像を見ると、稚魚は孵化器の隅の方にさいのうを付けた状態で身を寄せ合っている。白濁した死卵はないというから、100%の孵化率だ。様子を確認して、孵化器はまた河床のもとの場所に戻された。

 うまくいったと安堵したが、いくつかの孵化器は課題が残ったとの報告もあってちょっと落ち込んだ。今回の放流では100円ショップで買った虫かごを孵化器に流用した。孵化器を使ったのは孵化後、しばらくの間、内部で保護するためである。しかし、孵化した稚魚がかごの隙間をすり抜けて外に出てしまったという。他の孵化器については隙間を網で細工したので、内部に留まっている。送信されてきた画像はこれであった。

外部に出た稚魚は、腹部に栄養物の詰まった「さいのう」と呼ばれる袋をつけている。さいのうは稚魚の成長にあわせ吸収され小さくなる。孵化器から抜け出てしまった稚魚は、さいのうを付けたままのヨタヨタ状態、無防備だ。どうか、外敵に気づかれず落ち葉の下に隠れていてほしいと願う。間違ってもウグイなんかに食われるんじゃないぞ。某日、季節の移ろいとあいまったのだろうか、ヒゲ面の50男が妙に感傷的になって、我ながらおかしかった。



小島満也(埼玉県飯能市)
| - | 07:03 | - | trackbacks(0) |
「親心」
 無聊をかこっていた釣り師が集まって、この秋、埼玉県飯能市を流れる入間川の支流にヤマメの発眼卵を放流した。普段、魚を殺して食べることが釣り師の本分であると主張する面々だが、どういう風の吹き回しか懺悔の気持ちが湧いたらしい。で、地元漁協に話をつけた。

 5000粒の発眼卵は発泡スチロールに入れられてやってきた。全体の量はどんぶりに3分の1くらい。卵は薄いピンク色で、直径5ミリほど。一粒ひとつぶがプリプリしていて、はじけそうな感じ。まるでゴム毬のような弾力だ。「どんな味だろ」。誰かが軽口をたたいた。改心なぞしていないらしい。その球体の中に黒色の可愛らしい目があった。発眼卵だから当たり前か。

 孵化器には100円ショップで購入したプラスチック製の虫かごを使った。およそ500粒ずつの卵を虫かごに入れ、河床に埋設、周囲を石で囲う。そんな作業を落葉が舞う谷川の何箇所かで、半日ほど行った。

 卵の孵化時期は積算温度で決まる。発眼卵購入先の養魚場に、これまでの積算温度を尋ねたが分からないという。いつ孵化するかの目安として知りたかったが、時期がくれば卵は自然に孵り、孵化器から下界へと出ていくはずである。大きな問題ではない。

作業から数日後、雨が降り続いた。増水した谷川で孵化器は流されていないか、気にかかる。考えることは同じである。見覚えのある仲間の車が谷川の辺にとめてあった。親心に再び目覚めたらしい。



小島満也(埼玉県飯能市)
| - | 16:51 | - | trackbacks(0) |
碓氷川の尺アユ
私のお店もオープンして今年で24年目、来年は25年目に入ろうとしている。かれこれ四半世紀にもなるんだなと自分に言い聞かせる。よくよく考えれば、私のお店は地元に有名な渓流や湖があるわけでもない。しかもルアーも扱わないで、純粋にフライだけのお店なのに24年間もよく続けられたものだ。

今年の9月に入り、剥製の注文の電話が入った。私のお店も魚の剥製は、おかげさまで数え切れないほどやらせて貰ったが、たった1種類だけ24年間やったことがない魚種があった。それはアユの剥製だ。ちなみにアユの日釣り券も1回も売ったことがない。
「お宅は剥製はやって貰えるのかね。今釣ったばかりなんだけど」
「魚種は何ですか」
「アユだよ」
午後5時過ぎにお客さんが持って来たのは、29.5センチのアユだった。「碓氷川でさっき釣って来た」という。天気はよく晴れていて、9月にしては暑かったような日だった。残念だけど、釣りのがしたもう1匹はこのアユより大きかった、と言った。



9月の下旬にまた電話があり、今度は31センチで335gのアユを、やはり碓氷川で今釣ったのだが剥製にできるるか、との依頼だった。先日とは違う方からだった。
やって来たお客さんに、はく製の仕上げは、額入りと板貼りとどちらが良いですかと尋ねた。どうしょうかと悩んでいる様子だ。ちょうどそのとき、完成してはいるがまだお客さんが取りにきていない、イワナのはく製が店の中にあった。額に入るとこんな感じです、とお客さんに見せた。お客さんはおもむろに右のズボンのポッケに手を入れて巻尺を取りだし、剥製の全長をガラスの上から測った。ウン、同じぐらいの長さだ。それから縦を測り、ウン、このくらいの高さだ。
お客さんからすれば良い感じでイメージができたようだ、ほこりもかぶらないし、ほこりを取る時にヒレをかいてしまう心配もないしと、額入りに決めてもらった。その方は、白い発砲スチロールに乗せて捧げ持つようにアユを店に持って来た。フライマン以上に神経が繊細のようだ。他の釣り人より抜きんでようと思ったら、豪快さや粘り強さだけでなく繊細さも兼ね備えていないといけないのだろう。そうでないと、なかなかこんなに大きいアユは釣れないのだろう。そこのポイントに大きいアユが泳いでいるのが見えていて、それを狙って釣り上げたのだそうだ。



松井田は古い宿場町で、商店街が長く中山道の旧道に沿って並んでいる。同じ道沿いに私のお店を含めて1キロの間に3軒の釣具屋がある。他の2軒は餌釣り屋だ。
あるとき、1番古い釣具屋の横山さんが「おいおいちょっとお店に寄れよ」と私に声を掛けてくれた。
「今年は凄いぞ。小さい時から面倒を見て来たうちのお客が、碓氷川で32センチのアユを釣ったんだ」
「エー、じつはうちも初めてなんですけどアユの剥製を頼まれました」
横山さんによれば、冷水病などというものがない時代、たいへんにアユ釣りが盛んな時でも、碓井川でアユの27、28センチと言えば1番大きいぐらいだった。横山さんの御爺さんの代にも、32センチなん聞いたことがないという。私は恥ずかしいけれど、アユ釣りはよく分からない。でもアユの32センチといえば全国レベルでもかなり大きい方に入るんだそうだ。横山さんは続けて言った。
「おめい、それだけじゃないんだぞ。今年の碓氷川はどうしたんだか投網も凄い。やはりうちのお客で1日に600何匹もとったお客がいる」
横山さんも長く釣具屋をやっているが、投網でこんなに1日でとったのは、初めての話だという。だから今年は9月中旬でもまだ囮店で囮アユを売っているそうだ。

幾日か後に横山さんに32センチのアユの写真を見せてもらった。大きすぎてアユに見えないという感想だ。たしかにメジャーの目盛りの32センチのところに、ピンシャリの尾っぽの先が届いていた。写っている釣り人の顔を見ると、私も知っている人だ。なんとも言葉にできない良い顔をしていた。いくらアユ釣り師が多くても、この記録を抜くのは至難の業ではないか。

横山さんが帰りしなに言った。
「来年は何十年かぶりにアユの年券が数多く売れるのではないか」
32センチのアユを釣った釣り人に負けないぐらいの、横山さんのその微妙な笑顔が1番印象的であった。



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特大の折り紙の夢(2)
「じつは俺も、自分の趣味で長年折り紙を折っているんだ。しかしなかなか人様に見せる機会がないんだ。もしよかったら、釣りとは全然関係ないが、お店で俺の折り紙を紹介してくれないか。動物の折り紙だよ。」
シンちゃんには、そんな隠れた趣味があったんだ。知らなかった。



「ただし、普通の折り紙ではないよ。風呂敷ぐらいの大きさの白上質という紙で、4〜5枚で1セットになっているんだ。よい紙だよ。それを3つに切り、1つは頭で1つは胴で1つは足にして折り始めるんだ。こんなに大きい折り紙は、だれも折っていない。自分のオリジナルだよ。小学校の2年生ころから、当時の『主婦の友』に出ていた折り紙を見ながらやり始めたのが最初さ。俺は創作折り紙の吉澤章先生を尊敬しているんだ。」
シンちゃんは続けて言った。



「ハトは平和の象徴だろ。これは一枚の紙を、切らずに織り上げるんだ。細かい所まで織り込むから、羽を広げることもできるよ。イヌは忠犬ハチ公をイメージして折ってある。チンチンまでついているんだよ。」
「へぇー。」
「トラは森の王様だ。ライオンは縦髪と口の辺が苦労するね。ネコは大きく曲がった背中が難しいかな。どれも完成までに3、4時間ぐらいかかる。」
シンちゃんはそこまで言うと、ちょっと首を傾げて、
「ほんとは5時間はかかるな。今は時間がなくて、なかなか折れないのがつまらない。誰でも折れるように図面も作ってあるよ。だけど細かいからなかなか難しいかな。」
私はシンちゃんに聞いてみた。
「シンちゃんはそんなに大変な折り紙を折って、一番何が言いたいわけなんだい。」
シンちゃんは言った。
「平和かな。自分は折り紙を折っている時が、気持ちが一番落ち着くんだ。時間は気にならない。自分はいつか一冊の折り紙の本を出すことが夢なんだ。」
シンちゃんの熱が私にも伝わってくるようだった。



その日の夜おそく、シンちゃんから電話がかかってきた。
「一眠りしたから、これから折り紙を持って行っていいかい。」
「もちろん構わないよ。」
シンちゃんは、ハト、犬、猫、トラ、ライオンの折り紙を持って来た。
第一印象は、でかい。
「これ全部、自分で立つんだよ。」
「へぇー。これは普通の折り紙のツルからしたら、ガリバーだね。すごい迫力だね。」
「ありがとう、ノブちゃん。」

というわけで、シンちゃんの珍しい特大折り紙を私のお店に飾ってあります。遊びに来てください。



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特大の折り紙の夢(1)
「ノブちゃんいる?」
電話の向こうから、すこし低音の声が聞こえた。
「シンちゃんかい」
シンちゃんと私は同級生だ。いきなり、
「スイカ食べる?」
「どうしたんだい」
「スイカを貰ったから」
「食べるよ」
「しかしスイカにひびが入っているんだよ」
「スイカを落としたわけかい」
「そうではなく、自然にひびが入ったんだけどね」
「シンちゃんは今どこにいるんだい」
「ノブちゃんちの前の床屋にいるから、これからスイカを持って行くよ。床屋で髪を切ってもらっている間にスイカを冷蔵庫で冷やして、2人で食べようじゃないか」
「分かった。でもどのくらいスイカが冷えるか、わかんねいよ」



シンちゃんが持ってきたスイカを見ると、ずいぶん小さい。さっきまで畑になっていた証拠に土が付いている。水で洗ったが粘土っぽくて、親指で力を入れないと落ちなかった。小さくてもスイカの重さで土にめり込んだのかもしれない。中身はすっかり熟れているようだ。
割れ目に水が入らないように気をつかい、冷蔵庫に入れた。シンちゃんは
「じゃあ、行ってくるよ」
と言って床屋に出かけていった。

小一時間してシンちゃんが床屋から戻って来た。
「団子まで買って来た。食うべぇ。」
どのくらい冷えたか分からないけどと冷蔵庫からスイカを出すと、意外に手のひらにひんやりとした感覚が伝わった。
スイカを切るとひびの所から割れて、まな板にドサと落ちた。でもうまそうだ。種がきれいに横に並んでいる。スプーンが必要だと探したが見つからない。
「種はヨウジでつついて出すのでいいかい。そのかわり、塩はスペイン産の天日干しの海塩だよ。」
シンちゃんが口には出さないが、(シャレたことを言うねえ)と言いたい顔を私にして見せた。スイカの汁をテーブルにこぼしながら、あっと言う間に二人で皮の白い所まで食べきってしまった。団子も腹の中に納まったので一段落だ。

私は釣具屋で、シンちゃんは釣りをしない。せっかくお店に来てもらっても、見てもらうものがあるだろうか。そうだ、シンちゃんは美術には興味があったはずだ。最近山梨からわざわざ来て、大きな彫刻を4つも置いて行った人がいる。それを見てもらおう。
私はシンちゃんに言った。
「自分も初めて聞いたことで恥ずかしいが、富山県に井波彫刻という伝統工芸があるそうだ。家の欄間を彫る本場らしい。そこで修行を終えて独立して2、3年目の人がフライフイッシングが好きなんだそうだ。そこで自分の趣味として、けっこうな大きさの魚を彫って、お店に持って来てくれたんだ。見てみるかい。なかなか見られる代物ではないよ。」
シンちゃんは案の定、どれどれと乗って来た。どこどこと食いついて来た。

まず、額に入ったヤマメが3匹いる。その内の1匹が今まさにカゲロウに向かって食いつきそうだ。カゲロウは必死に水の上でバタバタして波紋が広がっている。臨場感が伝わってくる。壁に掛けると目線に近くなり、ちょうど良い感じになる。
シンちゃんは、
「ヘェー、こんなの見たことがねえ。どうだいよくできているよ。魚も虫も葉っぱも細かくよくできているよ。おどろいたね。」
「まだまだ。じゃあこちらのウインドウに入っている彫り物はどうだい。楠の木の一本物から掘り出したんだって。」
「これも大きい作品だね。分かんねいけど高そうだ。」
「こっちの色付きのサクラマスはどうだい。本来、欄間自体には色を付けるものではないそうだけれど。」
シンちゃんは正直に、
「俺には良く分からないが、でもとても良いものを見せてもらったよ。俺は3匹のヤマメが一番よいような気がする。金額はどのくらいするかなんて生臭いことは聞かないよ。ノブちゃんちには色々変わったものが置いてあるんだね。」
と感想を言ってくれた。
どうもこのあたりから、だんだん風向きが変わって来た。(つづく)



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