いつものように朝5時に運動の途中で白雲亭から碓氷川を覗きこむ。
私なりに考えがあり、あれから幾日か日日がたっていて、鷺のオオワシに対しての警戒感は、あの時からするとどうに変化しているか見てみたかった。
ここ数日は無風状態が続き、オオワシは足のない案山子となってしまっている。
お〜い、風さん。3月頃のうちの屋根が強風で飛ばされそうで寝られない強風は御免だけど、その100分の1ぐらいの風をさらさらと私の見ているオオワシに吹いてくれないかな?
朝の私が見ている時間帯は、鷺は一度も舞ってくれない。
その時間帯に鷺は何をしているかというと、いつもより少ないが最低1匹はいて、30メートルぐらいの距離を保って、じーと座禅のように動かない。
そこで風が吹いてオオワシが舞い始めたら鷺はどんな行動を取るかと思うと、ついつい碓氷川を覗きこんでしまう。
そんな日々を送っていたら、フライの雑誌の編集長から電話がありあ、マズイ例の物をさぼっている?
「小板橋さん、7月にフライの雑誌が出ますのでまた、広告の資料をいつものように間に合うように写真といっしょに送って下さい。どうですかコロナの影響は。」
「うちなんかこんな田舎ですけど、もちろん地元は大切ですし頼りないフライショップですけど、けっこう意外と頼りにしていてもらっています。」
と答えた。つづけて、
「おい、どっちなんだといわれそうですけど、なるべくお客様の御希望にこたえたようと努力しているんですけど、今はコロナの影響で東京や関東のお客さんが県をまたいではいけないようですので。〈オイカワファイン〉が好調の滑り出しだったんですけど。コロナが、いつになるか分からないけど終息したアカツキを楽しみに待つしかないですね。」
「じゃ〜、小板橋さん、あの中山道の釣旅≠煢スでもいいですからお願いしますよ。」
私の脳味噌は(やはり云われてしまったな)と覚悟を決めるしかない。
「それからなるべく短くお願いしますよ。」
「じゃ〜、長く書いちゃおうかな?」 編集長は、
「長くてもいいですからお願いしますよ。」
編集長って大変だな。
「うちは、フライ屋だけどアユの解禁が近いのでアユの話でもいいですか?」
「かまわないですよ。」
アンクルサムのお店のことを思って云ってくれているん。
じぁ〜、碓氷川の中瀬大橋にオオワシ1号に会いに行くか、あれ、名前を付けちゃった。名刺をバッグに入れて、約15分だから歩って行くかと歩き出した。もう午後3時ごろだった。
橋を渡っていると、お〜い、オオワシ1号が空を舞っている。これは編集長のおかげだ。よしよしとデジカメを取り出し、オオワシ1号にもうちょっと右側の翼を上げて旋回してねなどと独り言を云いながら、シャッターを切っていると、あれ〜。
私の頭上あたりがよからぬ雲行きで、なんとトンビが俺の縄張りだと上を旋回している。まずい、俺もどうせトンビからは丸見えだろうな。
どこか隠れるところといってもないので姿勢を低くして見たが、一定の距離を保って旋回している。
お〜い、トンビ君、これは案山子兼凧だよ〜。
トンビなどは動いているものに反応するらしいので、案山子凧など関係なく、自分のエリアに入って来た物は追い出そうとしているんだろうな。
オオワシ1号は、人間一人と白鷺一羽とトンビ一羽を、ある意味ダマシテいるんだから、人間ではないがあなたは偉い。オオワシ1号以外は生活が掛かっている。できればカワウもダマシテね。
どうしても私がいると警戒するので距離が縮まらない。
ふと妙義山側を見る、と上流に1人釣りをしている人が見えた。エサ釣りの人のようだ。いやがるだろうなと思いつつ、石垣をスルスル降りていた。鷺やトンビと同じ行動をとっている自分がいた。
少し長い距離を保って、小さい声で、
「すいません、川まわりではないんですけど、釣れていますか?」
近くに寄るとルアーの釣人だった。釣りの支度もいい感じでセンスもいい。「なにか釣れましたか。」
「ゼンゼン釣れないですけどハヨは追って来るんですけどルアーのスプーンではね。」
オイカワファインで釣るのにハヨはちょうどいいんだけどな。ひとりごとを言っている。
私は、すいませんこんな所でこんなものを出しては大変失礼なんですけど、と恥ずかしげもなく名刺を差し出した。すると、
「私は2週間ぐらい前にアンクルサムで年券を買いましたよ。」
エー、気がつかなくて大変申し訳なかったです。
スイマセンケド、写真を撮ってもいいですか? 〈中山道の釣旅〉というのにもしかして載せてもいいですか?
「いいですよ。」
その後で、大事そうに私の名刺をポケットにしまってくれた。そんなに近くでは写真は撮らないですから、とプレッシャ―を掛けないようにいって、
「うちはフライ屋ですけど、ルアーの物は置いてないですけど、よかったらいつでも寄って下さい。ルアー釣りを楽しんでいって下さい。」
何枚か写真を取らせてもらった。
橋の下まで戻って来たら、なんとトンビがオオワシ1号に飛びかからん勢いで、3メートルぐらいまで物凄いスピードで接近していた。と思ったらもう1羽がすぐ近くを舞っていた。
私が見た限り、オオワシ1号はその時点では無傷だった。
まるで人間の世界を見ているようだ。
立場の弱いものは、間合いをとって容易に近づかないし、互角同士は激突する。
追伸 フライ屋ですが、上州漁協の地元、松井田地区あま沼の道案内ぐらいはさせて貰います。
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小板橋伸俊(フライショップアンクルサム/群馬県安中市松井田町)
※「マルタの雑誌」は季刊『フライの雑誌』読者が対象のweb投稿企画です。