2017年04月05日

年鑑札に勢いあり! 白戸さんのバンブーロッド

「小板橋さん、上野村の全魚券を下さい」

あれトップバッターだよ。昨日から発売だから。

「小板橋さん、去年まだ寒い5月に上野村へフライフイッシングをやりに行ったんですよ。けっこう釣り人がいたんですけどどういう訳か私のフライにだけ反応するんです。そのうち竿がギュ〜と曲がり、お〜お〜お〜、ものすごい勢いでひき始めた。これはデカイ。なかなか手元に寄って来ない。どのくらいの魚なのか分からないうちに、魚ではなく釣り人が何人も寄って来た。#2なので、竿の曲がりが凄い。

やっとのことでネットにデップリしたヤマメが観念したように横たわりました。何センチあったかって? 分からない。メジャーが車の中で取りに行けなかった。とにかく皆さんに取り囲まれて慌ててさ、携帯で写真を撮りました。」

フライは何を使ったのですか。

「まわりのフライマンはほとんどドライを使っていたようです。その中で唯一私だけが#12ウェットを使いました。」

#2に#12のウェットですか。風があるとキャステイングがしづらく無かったですか?

「大丈夫でした。ほんとの気持ちはこのヤマメがあんまりデッカイのでちょっとホニャララしたかったんですけど、釣り人に囲まれていたので写真を撮ってから皆の前でリリースしました。」

へ〜、だから今年は力が入っちゃてるんだ。

「そんなことはないですよ。」

と言っている顔色の中に、分かっちゃったかなと童心に帰ったかのようなお客さんの空気感を感じた私がいた。

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「そうそう小板橋さん、実は私はバンブーロッドを手に入れたんですよ、それが何と2,000円なんですよ、申しわけないのですが小板橋さんにその2,000円のバンブーロッドを見て頂けないかと思いまして。」

私にできることならしますよ。次の日の朝10時前、

「おはようございます。小板橋さん、例のバンブーロッドを車の中に持って来ているんですけど視てもらえますか?」

どうぞ持って来て下さい。じゃあ見させてもらいます。

これは個人が作ったバンブーロッドですね。リールシートやリングは既製品を装着してある。これは全然問題ないですよ。コルクもそこそこよい物を使ってある。オスのフェルールの底の竹が丸見えだ。トップガイドが真横に付いていますね。

「ほんとだ、こんなになっているとは気がつかなかった。」

トップガイドをライターで軽くあぶってペンチで引っ張ればすぐ抜けますよ。じゃあ外に出て振ってみますかね。番手が書いていないけれど、あ、これは4番ですね。それに振った感覚だと、まだバンブーロッドを作って多分数本という感じかな。しなり方が全体にバランスが取れていない。素材は真竹ですね。

これが2000円か。何十万という高価なバンブーロッドの金額を聞くと、ロッドビルダーも生活がかかっているのは分かるけれど、値段って何なんだろうと考え込んでしまう私の脳味噌がいる。するとお客さんが

「私も4番じゃないかと思ったんですよ。」

バンブーロッドは自然のものですから、買ったお客さんがラインを通してキャステイングをして、自分が一番合うと思った番手がベストですよ。

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・・・・・

たまたまその日の夕方、白戸ロッドの白戸さんから電話があった。バンブーロッドを持ってきてくれるという。6本も。ありがとうございます。楽しみにしています。ちょうど鑑札を買いに来ていたお客さんがいて、白戸さんと長く話せなかった。申し訳ないことをした。もう少しバンブーロッドの話をしたかった。なにせアンクルサムでは、上州漁協と上野村漁協と佐久漁協の3漁協の年鑑札と日釣券を扱っている。1人のお客さんが「2か所の鑑札と友達のもいいですか。」なんて来た日には、私の脳味噌は平常心を保つのが大変です。

次の日いつものように松井田駅へ白戸さんを迎えに行った。

「小板橋さん、こっちはそんなに寒くないですね。私の神奈川では昨日は窓を開けましたよ、毎年変な天気になりますね。」

碓氷川はお水が少ないので一雨降ってもらいたいです。大雪はごめんですけどね。

ここのところお店では真竹のバンブーロッドが出るんです。この真竹ロッドは竹フェルールで3ピースですか。また改良されていていい感じですね。

「フェルールが金具ですとその重みで竹が曲がるので柔らかい感覚に感じるかもしれませんが、竹フェルールだと同質なので堅く感じるかも知れません。」

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なるほど、私は昨日の2000円のあれを思い出した。金額でバンブーロッドのことをいってはいけないが、あれはあれで充分楽しい釣りができる。白戸バンブーロッドは、お客さんからも白戸ロッドの塗りが前よりずぅ〜とよくなっていると聴くし、竿のしなり具合も番手に合った気持ちのいいパラボリックになっている。やはりここまで何百本もバンブーロッドを製作して、試行錯誤しているからだろう。これからも白戸さんのバンブーロッドは進化していくだろうな。なんといっても白戸さんのバンブーロッドに立ち向かう精神が素晴しくて尊敬しています。

おやおや、でも私は何さまのつもりか。白戸さんが渡してくれるバンブーロッドを検品だと言って、「はい、良いでしょう。では次。」なんて言っている。自分が恥ずかしい。

検品が済むと、白戸さんが「小板橋さんに何をいわれるかとドキドキしているんですよ。」と言った。私も真剣に見させてもらっています。

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ふと、白戸さんとのやりとりを思い出していると、電話のメロディーがやけにいつもより大きく聞こえたような感覚があった。受話器をとると、昔から虫の知らせという言葉があるが、『フライの雑誌』の編集長だった。じつは自分でもそろそろ新しい中山道の釣旅を書いて送らないとまずいなと思っていたのだった。ヤバイと思っていたら挨拶もそこそこに、

「小板橋さん、去年の野球とソフトボールの記事から、中山道が止まっているようですけど。」

ドキ。すいません。私の脳味噌がオフシーズンに入っちゃっていたんです。冬眠していたんですが、いま編集長の声で目が覚めました。

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編集長は「じつはこっちも冬の間は牧浩之さんの新刊の続編の「山と河が僕の仕事場A」を出すのでドタバタしていましてね。」と話してくれた。牧さんの続編、売れるといいですね。

と受話器を切って、大きく息をはき出す私の脳味噌がいた。

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・・・・・


小板橋伸俊(アンクルサム/群馬県安中市松井田町)

※「マルタの雑誌」は季刊『フライの雑誌』読者が対象のweb投稿企画です。

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posted by furainozasshi at 00:23| 中山道の釣り旅