長い期間中山道の釣旅をお休みしていまして、どうもすいませんでした。
白戸さんから電話があった。
「小板橋さん、#1のバンブーロッド今作っているんです。次に持って行こうかなと思っています。」
ここのところ〈フライの雑誌〉でオイカワの特集をすると大変評判がいいんですよと電話で編集長が嬉しそうに私に語りかけてくれていたな。
あ〜もしかすると、と私の脳味噌が勝手に妄想を暴発させた。ここはメッタに無いチャンスの大波が今きているから、乗りなさいと私に声をかけて来ている。ここは白戸さんに乗るぞ。
「オイカワ用に#1・#2のバンブーロットを全力で作って下さい」
「小板橋さん、どうしちやったんですか?」
「どうもスバラシイ大波が来ているので、イヤラシイいい方で申し訳ないのですが何本作れますか?」
「5本は作りたいですね」
白戸さんは、声には出さないが随分勝手なことをいう人だなと思っているかも。こんなことをいうと白戸さんに怒られるかもしれないが、これまでこれは出来ませんとことわられたことはありません。だからといってそんなに強気で、迷惑をかけていいのかな。
そんな時、いつも不思議と編集長から電話が入る。
「白戸さんの#1・#2のバンブーロッドをオイカワ用に作ってもらいます。今度の広告に間に合えばと思うのですけど」
と話をすると、
「それっていい話ですね」
「5本作ってもらうことになっているんですけど」
編集長からアドバイスで「リールシートはコルクの方がいいですよ」とのことだった。白戸さんはウッドでも考えていたようだ。しかし編集長が言っていたよというと、白戸さんはすなおに全部コルクにするといった。
それから「ただのバンブーロッド#1・#2では、インパクトが弱いので、絶対名前を付けた方がいいですよ」とも、言ってくれた。
2人で何かいい名前をつけて、最後に編集長にも考えてもらって、決めることにしましよう。白戸さん、いい名前を考えて下さいねとお互いに健闘を誓い合った。名前って、大切だからほんとに一生懸命だったんですよ。
◇
白戸さんがバンブーロッドを持って来た時に、小さく折った白い用紙に四つか五つ、鉛筆で書いてあった。白戸さんが自分で読むのは照れくさそうだったので、私が覗き込むようにして声を出して読んだ。
「小板橋さんのは」と白戸さんが言うので、三個ぐらい声を出して読んだ。私も白戸さんも真剣に考えたと思うのですが、なんだか二人とも照れてしまうのはなんなんでしょうかね。
その中で私が
「オイカワ・ファインはどうですかね」
と白戸さんに聞いてみたら、即座に
「どこかにそんな名前がありましたよ」
と白戸さんに言われてしまい、いまひとつ乗る気がしない返事が返って来た。私的には大分しょんぼりしてしまい手詰まり感が漂ってきたので、そうだ編集長に電話をして聞いてみようということになった。
二人の考えたいくつかの名前を編集長に言った。不思議なものでその時は照れもせず真剣に言っている自分がいた。
すると編集長が「オイカワ・ファインがいいですね」と即答してくれた。しかし私が「白戸さんがなんとかファインってどこかで名前が出ていましたというので、没だと思っていたんですけど」と言うと編集長が「オイカワ・ファインという名前は他にありませんから大丈夫ですよ、いい感じの響きではないですか」
◇
白戸さんに電話して、
「オイカワ・ファインに決まりました。白戸さんが心配していたなんとかファインですけど、他にないですから大丈夫ですよと太鼓判を押してくれましたよ」
と言うと白戸さんは納得してくれた。
「次のバンブーロッドにはオイカワ・ファインと名前が入りますね」白戸さんが「私は字が上手くないから」と心配しているようなので、大丈夫、大丈夫。編集長が白戸さんのバンブーロットの字は個人的に私に好きですよといっていたから、白戸さんが思っているほど心配しなくてもOKだから。スレッドの色なんかもオイカワをイメージして色々考えてみて下さいね。
それからフェルールも竹がいいですよと編集長がアドバイスしてくれましたよ。ロッドの長さも個人差がありますから一概に言えませんけど6フィートちょっとくらいが、いいかも。
それから編集長も嬉しいことに大変個人的に興味があるそうです。それから最後にこうもいっていました。絶対真似をするひとが出てきますよ。
バンブーロッドを作らない私がいうのもオコガマシイが大丈夫です。白戸さん、自信を持ってオイカワ・ファインを製作して下さい。たとえ真似をするバンブーロッドビルダーが出てきても、白戸さんは素材にしても何種類もの竹をバンブーロットに作り今までたくさんのリピーターの人に支持されて来ているのですから。
◇
このあいだ埼玉県のお客さんで、白戸さんのバンブーロットを何本も買ってもらっている方ですが、「小板橋さん、今回は時間がないので」と言いながら3本あるダブルハンドロッドを見ただけで「これを下さい」と3ピースの#7 10フィート3インチの代金を払っていくので、「あの、あの、白戸さんのバンブーロットをお使いいただいているのは分かっているのですが、シングルとはダブルハンドは大分違うので、できたら表で何回かロッドを振って感覚を感じてくれませんかね」というまもなく「白戸さんのロッドでしょ。分かっているから」
えー、感覚が違うんだけどな〜。
2週間ぐらいしたある日、「このあいだはダブルハンドをどうもありがとうございました」とそのお客さんから電話が入った。私は体が硬くなるのを感じていると、「いいロッドですよ、とっても」。え〜、私の体から急に力がひいて行くのが分かる。
まだあと2本はまだありますか、はい、あります。私の声も高い声になっているのが恥ずかしいが自分で分かる。その日の午後にお店に寄ってくれて、2本を表で振り比べてくれて「どっちもいいな」といってトンキンケーンのダブルハンド・3ピース・#8 10フィートを買ってくれた。今度はロッドを振って確認してくれたので私も安心だ。
白戸さんはバンブーロッドはダブルハンドから#1・#2まで、そのほかルアーやタナゴの釣り竿も竹で作っている。そんなビルダーは少ないと思います。
◇
編集長から「上野村へ取材に行きますので、お店に寄ります。ぜひオイカワ・ファインを見せて下さい」という電話があった。午後に来てくれて、「真竹の#1、6フィート2インチの竹フェルールのオイカワ・ファインを買います」といいだしたので、気にいってくれたようだ。
「オイカワ・ファインの最初の広告なのでなにかインパクトのある広告を考えているんですけどいい方法はありますか」
と編集長に相談すると、「私がいつもオイカワを釣っている川で私がオイカワ・ファインを使ってオイカワを釣って広告用の写真を撮りますよ」
ほんとですか。人と人とのお付き合いが大切だと世の中いうけれどこの瞬間私は深くおかげさまで味わうことができました。
次の日の夕方、気になって編集長に電話を入れると、
「これからちょうどオイカワ・ファインを持って釣りに行くところですよ」
とのことで、
「でも今からだともう暗いのではないですか」というと「ゼンゼン大丈夫ですよ!」
編集長の心が躍っているような感覚がわたしの受話器の耳元に届いた。
スゴイな白戸さんの真竹1#のオイカワ・ファイン。
◇
数日後、フライの雑誌社から大きいうすい封筒が届いた。開けてみると、カラーで用紙1枚分をオイカワファインの広告だ。オイカワ・ファインと一緒に写っている、とても凛々しいつらがまえと健康美のオイカワ。それと白字のロゴ〈Oikawa Fine #1・#2〉。私はドキドキしている。
数日後〈フライの雑誌〉の117号が届いた。さっそく72ページを開いて見た。一番目立っていたのはオイカワでもなくランディングネットでもなく、名前の分からない古びたいい感じの雰囲気を醸し出しているリールでもなく、微妙にぼかして見えるオイカワ・ファインだ。控えめのようでも一番うきあがって見えるのは私だけでしようか。プラス、ロゴもいい。
白戸さんに〈フライの雑誌〉が出ましたよと電話を入れると、午前中に釣具屋さんにいって来たのですが、まだ出ていなかったですよ。しばらくして白戸さんから電話があり、開口一番「いいですね」。二人であそこがいいとか、ここが良く撮れているとか、でもほとんど私が話をしていたような気がする。
◇
白戸さんにどうしてオイカワファインを作ろうと思ったのか話を聞いてみた。
「〈フライの雑誌〉でオイカワの特集をしたことがありましたよね。その時に#1のバンブーロッドを作ろうと思って、作りだしましたんです」
編集長にオイカワファインの釣り味はいかがでしたか、と聞くと
「ドライの釣りは#1ラインがあっていて、#2ラインをのせるとウエットがあっています。グニャグニャしないでしっかりキャステイングできました」
あと4本あったオイカワ・ファインは、2人のお客さんが2本ずつお買いになられた。私はどれか1本はこれからオイカワ・ファインを見に来る人に見せたいし触らせたいのです、と言ったのだが、二人ともどうしても2本オイカワファインを欲しいといわれるので、私の心は鬼になれませんでした。
118号の2回目の広告の写真も編集長がやってくれるということになった。消費税が上がりますがなるべくリーズナブルな価格でいいバンブーロットを皆様に提供させていただきたいと思っております。色々な方々の御協力があってこの価格でお客様に提供できております。これからもよろしくお願いします。
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オイカワ・ファインを買ってくれた一人はしばらくしてお店に寄ってくれた。「実は私はヤマメをオイカワ・ファインで釣っているのですよ」。ちょいとちょいとオイカワ・ファインはオイカワを釣るバンブーロッドですよ。
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小板橋伸俊(フライショップアンクルサム/群馬県安中市松井田町)
※「マルタの雑誌」は季刊『フライの雑誌』読者が対象のweb投稿企画です。