2006年09月26日

Mさんの川

●地元漁協の監視員として何十年も川を見守り続けたMさんが死んだ。Mさんの管轄は自宅周辺のヤマベやアユの中流域。だから、仕事の内容も密漁者に目を光らすような渓流域のそれとは大分様相が違って、もっぱら遊漁料の小銭を徴収するのが主だ。こう書くと緊張感のない監視活動と勘違いされそうだが、遊漁料徴収はいたって厳しく、双眼鏡で釣り人を見つけると、老若男女問わず取り立てた。漁協にとっては頼もしく、釣り人側からしてみれば厄介な存在だった。
●「ああっ、〇〇ちゃんかあ。金はいらねえ。いっぱい釣れよ」。Mさんは僕と川で会うと、けっして金を取ろうとはしなかった。ある晩のこと、Mさんが酔って電話をかけてきた。ろれつが回っていないので聞き取りづらかったが、話しの中身を要約すると「いい大人がタバコ代ほどの遊漁料を出すのを渋る。食べ残した物を河原に放置したまま帰ってしまう。情けない」などというものだった。何だか、こちらの愚行を見透かされているような気がした僕は電話口で頷くだけだった。
●Mさんはその後、自宅風呂場で倒れ、そのまま逝ってしまった。あっけない最期。あの監視の執拗さをもってすれば、もっと頑張れたんじゃないか。スーパーカブに跨ったMさんの姿が浮かんだ。Mさんがどうして電話をかけてきたのか、僕には未だ分からない。深紅のヒガンバナが、Mさんが佇んだ川に今年も咲き揃った。

毛鉤丸(埼玉県飯能市)

posted by furainozasshi at 10:58| Comment(0) | TrackBack(0) | やまべの雑誌
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