2012年06月12日

ゴーシュさんの新しいバンブーロッドと試し振り

ゴーシュさんは最初に竹フェルールのバンブーロッドを2本持って来てくれた。2回目には#3の6フィート9インチの真竹ソリッド(デモ用)と#3の6フィート9インチ淡竹セミホロ−、#3の6フィート9インチ・ソリッドを持って来てくれた。今回は新しく3本を持ってきてくれた。キャスティングを試してほしい、ということで、デモ用と銘打ってある。



バンブーロッドの竹フェルールは、桐生のバンブーロッドビルダー、中村羽舟さんとその友人の島崎憲司郎さんが最初に考案して作った。私が竹フェルールを初めて見たのはその中村羽舟さんの工房だ。羽舟さんの工房の周りはむかしの花街の飲み屋街のようで、うす暗くて、ドレスの色は忘れたが幅の広いゴールドのベルトを光らせたホステスさんが通りかかって、私の顔を見ながら(これから勝負に行ってきます)というような微笑みを浮かべたように見えたことを覚えている。高崎の柳川町のホステスよりずいぶんと優しい顔に見えた。

竹フェルールはあのぬるぬる感が特徴だ。金属のフェルールはどうしても差しこんでから強く差しこみすぎたかなという感覚がある。時には楽しいフライフイシングが終わり、さあフェルールを抜こうとして、ああ〜やっちゃった。抜けないどうしようという経験をされた方は多いのでは。竹フェルールはその呪縛からフライマンを解き離してくれた感覚がある。ぬるぬると。竹のフェルールが剥離してしまうのではないかと剥離する前から逆の呪縛にとらわれるフライマンもいるかもしれないが、40、50センチぐらいの魚はまったく心配ない。ただし竹フェルールはできるだけ蝋を塗るようにした方が間違いないように思います。バンブーロッドと竹フェルールは、素材が同じ竹どうしだから違和感がないだろう。松井田の地元でいう、しの竹のワンピースのようだ。今までの金具のフェルールとは違った感覚が楽しいだろう。けして金具のフェルールがいけないと言っているのではありません。とりあえず比べてみないことには分からないことですから。



ご夫婦でバンブーロッドを見に来てくれたお客さんがいた。あいにく外は小雨が降って居た。どうも白戸さんのバンブーロッドが気になるようだ。しかし外は無情にも小雨である。やはり雨の中バンブーロッドを振ってもらうわけにはいかないので、お客さんに心の底から謝った。それから1週間後電話が鳴った。そちらの天気は如何ですかと1週間前のお客さんからだ。私は「今日は99.99%大丈夫です」と答えてから、何の気なしに外へ出て空を見上げて見るとエー今にも雨が降り出しそうだ。いやあ、参ったな。お客さんの電話番号も分からない。お客さんはうきうきとアンクルサムに向かっているだろうに。すると1時間後に、お客さんがまたご夫婦で「1時間早く来てしまいました」と店に来てくれた。天気はまだぎりぎり大丈夫。ホッとした。白戸さんの真竹の#3の7フィート6インチを選んで、外に出て振りはじめたところで、ああ、細かい霧雨が。お客さんは白戸バンブーロッドを左腕と体に密着させてバンブーロッドを濡れないようにしてくれている。後姿のさりげない気持ちが私には嬉しかった。

ゴーシュさんが新しく持ってきてくれたのは、#4の7フィート0インチ2ピースと#4の7フィート3インチ2ピースと3ピース#4の7フィート7インチ。すべて真竹でソリッドのカシュー仕上げだ。私の思惑とちょっと違っていたので、つい「セミホロ−でオイルフイニッシュ仕上げでは無かったのですか」と聞いてしまった。するとゴーシュさんは「セミホロ−のバンブーロッドを使いたい方はカーボンかグラスのロッドを使えば中が中空ですよ」と言った。私は目からうろこが落ちたような衝撃を受けた。セミホロ−とかオイルフィニッシュ仕上げのバンブーロッドが少ないことをいいことについ私の脳みそはそちらに走りがちだったような、気がした。いい意味でゴーシュさんにブレーキを踏んでもらった。

ゴーシュさんのバンブーロッドの考え方は一種独特だ。ゴーシュさんが作ったバンブーロッドをアンクルサムに持って来て、それをお客さんが自分に合っているか、実際にキャステイングをして購入を決めてもらいたいとのこと。ゴーシュさんのお話では、お店でバンブーロッドをブルブルと振らせて貰うだけでは、ほんとうに自分が望んでいるバンブーロッドかどうかは、分からないのではないか。それよりはデモロッドにラインを通して振ってもらって、納得できれば楽しい釣りもできるしまた、バンブーロッドを大切にできるのではないかと言うのである。ゴーシュさんは、現物以外のバンブーロッドは作らない。たとえば何番の何フィートで調子はこんな感じで竹は何でグリップは細め、といった注文は一切ない。アンクルサムに置いてあるバンブーロッドの中から選んで下さい、というやり方でこれからやっていきたいと私にハッキリと言ってくれた。



しばらくして、埼玉県からゴーシュさんのバンブーロッドをキャスティングしてみたい、というお客さんが来てくれた。ハーディーのリールをゴーシュ・ジュリア#4の真竹ソリッド・竹フェルール・シガーミディアムに装着して、白いタオルの上に静かに置き、手なれたしぐさで白っぽいラインをガイドにさささと通した。軽井沢方面へ10メートルほどフライラインをのばして、楽しそうだ。お客さんは小さい声で、「これからバンブーロッドを選ぶのが楽しみです」とぽつりと言って、また他のバンブーロッドを振っていた。

しばらくお客さんの至福の時間が流れて、ゴーシュ・ジュリエッタ69(淡竹)#4 6フィート9インチ・オイルフイニッシュ仕上げ・セミホロ−・竹フェルール・ノードレス・魚のキーホルダー付きを買ってくれた。アンクルサムにバンブーロッドを置いてくれているビルダーさんが、全員デモ用バンブーロッドを用意しているわけではないが、これからはぜひお客様のご要望に添えるようにコツコツやっていきたい。




小板橋伸俊(アンクルサム/群馬県安中市松井田町)

※「マルタの雑誌」は季刊『フライの雑誌』読者が対象のweb投稿企画です。ご投稿はinfo@furainozasshi.comまで
posted by furainozasshi at 00:20| Comment(3) | TrackBack(0) | 中山道の釣り旅
この記事へのコメント
初めてコメントを書き込ませて頂きました。


私は、和竿を個人的に作成しているのですが、
幼い頃から、父に連れられてフライフィッシングに触れていた事もあり、現在バンブーロッドの購入と、ゆくゆくはメイキングもしてみたいと考えています。
そのために、現在いろいろ調べているのですが、
その中で『竹ソリッド』というものを拝見しました。

通常の六角や四角などの竿や、軽量化の為のホロー構造の種類などは、詳しく説明されているのですが、『竹ソリッド』については皆目、説明されていませんでした。

色々な、ビルダーさんのサイトや愛用者さんのブログを訪ねてみましたが、残念ながらどのような構造の物なのか、わかりませんでした。

身近な場所に、バンブーロッドを扱う釣具店やプロショップは無く、ビルダーさんもいらっしゃらない為、伺ってお聞きすることもできません。

大変図々しい事は、重々承知しておりますが、
どうか、通常のバンブーロッドと竹ソリッドのバンブーロッドの構造の違いを、
ご教授お願いいたします。
Posted by 紅華蒼蓮 at 2015年08月02日 23:55
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