2014年06月30日

第40回  安政遠足侍マラソン

骨董屋さんの椅子に座り話をしているうちに、何だかさっきまで気にならなかった、あのガラスの中の額の字が私に呼びかけてくる。おいおい、俺は安中藩主の板倉勝明(いたくらかつあきら)、安政遠足マラソンの発案者の父ちゃん、板倉勝尚だぞと話しかけてきたような感覚がある。

 

白雲山人とは、板倉勝尚の雅号だ。私は書や掛軸はまだ駆け出しの小僧っ子だが、私の大好きな殿様が板倉勝明翁なので少し勉強をしていた。勝明の父上の勝尚(かつなお)の雅号の白雲山人は、よっぽどのことがない限り知っている人は少ないと思う。

そこで真剣に見たりするとまずいと感覚的に思い、全然気にしない振りをして、帰りしなに「すいませんあの額は幾らですか?」と骨董屋の親父に聞いた。「う〜ん、千円」。そこでにっこりしちやあ駄目だ。さっきの高林二峰の書を買ったんだからこれサービスしてくれない? しょうがねいな、いいよ、どうも有難うございましたと、ただで貰ってきてしまった。


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その日の夜、私が一番尊敬しているある人に電話して、額の中の書は誰のものだか見て下さいとお願いした。すると「う〜ん小板橋さんこれ凄いよ。本物かもしれない。字のバランスもとてもよい」と言って、じっくり色々な角度から見てくれた。

 

「これは不倒不倒(ふとうふとう)と読むんだよ。まず先に自分が倒れない、そして相手を倒さない。相手の命を取らなければ、相手はそのことを恩義に感じて、何かあれば味方になってくれるかもしれない、という意味だよ」。

 

「ところでこれいくらで買ったんだい。千円、凄いな」。「いいえ、まだ後があって他の書を買ったので、サービスで貰っちゃったんです」。「本物なら何十万円だよ」。

 

板倉勝明の父親の勝尚は、1821年に33歳という若さで亡くなっている。この書が本物かどうか、自分で調べるしかないなと思っている。私一人ぐらいロマンを求めてもバチは当たらないと思う。

 

第40回安政遠足侍マラソンが今年もやって来た。


全国から1,596人(うち仮装は1,370人)のランナーが集結。旧安中藩武家長屋から、長野県境の熊野神社までの「峠コース」(28.97キロ)と「関所・坂本宿コース」(20.15キロ)の2コースを駆け抜けた。今回は節目でもあり、歴代最速の、募集開始から3日で定員に達したそうだ。


毎年、その年の人気キャラクターやNHKの朝ドラや日曜日の夜8時からの時代劇などに出て来るスターを真似た仮装で駆けて来るランナーが多い。


去年は八重の桜で八重さんが袴で背中に銃を背負って、桜の花をまいてゲキソウしたり、新島襄に扮装した選手が多くいた。群馬県は全国の都道府県の中ではビリの方で知名度が低い。今年は何も群馬県は無いかなと思っていたら、なんと隣の富岡市の富岡製糸場が世界文化遺産に登録されるとのこと。


マスコミや新聞で宣伝してくれているせいか、わたしが漢詩教室で通っている富岡市は、去年はほとんど道路に人は歩いていなかったのに、最近は道路の両側に見るからに地元では無い人人が2列になってている。

 

そんなことで、第40回安政遠足侍マラソンが始まった。

 

今年は初めて白バイの先導でトップのランナーを写真に撮ることができた。ぐんまちゃんのかぶり物で走って来た。


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こちらのランナーは女性ではトップクラス。髪の毛が地元のゆるキャラ、ぐんまちゃんのたてがみのようで黒くボリユームがあり、私からすると誠に羨ましい。


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カップラーメンが頭にはちまきをして駆けて来た。その後の蓋のめくりあがりぐあいが何ともラーメンだけに、いい味が出ている。このカップラーメンの容積なら俺で3年は食って行けそうは大きさだ。

 

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織田信長、黒田官兵衛、豊臣秀吉は現在もこうして中山道をランナーとして走っている。1年かけて鎧兜をキッチリ仕上げてきたようだ。日本刀のさやの色が信長は赤い。芸が細かい。


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ワールドカップブラジル大会の関係で、熱い思いを仮装しているランナーが多い。


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今回はゆるキャラの仮装が多く中でもフナッシーが多い。随分ほっそり系のフナッシーだ。


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おぎのやさんは例年大きい釜の中に入り走って来るのだが、今回は創業55年と書いてあるし、母の味とも書いてある。やはり半世紀を越えると釜めしも母の味になってくるのかな? 創業者は女性だったと思う。


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富岡製糸場のまゆっしー。どう見ても名前が大人気のふなっしーのパクリだろうとだれでも思うところが笑ってしまう。でもお金をかけずにシンプルにいい感じでしあがっている。


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今回私が一番楽しみにしていたのが何と言っても富岡製糸場の仮装だった。3人は地元のお友達とのことだが、実物は100メートル以上あるがこんなにコンパクトに一目で世界文化遺産だと分かる建物を担いで走って来た。製作者の顔も良く見えるしぐんまちゃんの応援付きだ。若者の脳味噌は柔らかく手先も器用でデッサン力もある。ご苦労さんと自然に頭がさがる。


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エルビス・プレスリーも日本でジサボケか疲れているようだがマイクは離さないのはさすが大スター。センスが光るズボンの内側の赤とマフラーの赤。


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ラストはピース安中ランナーと、この侍マラソンの本質をとらえているちょん髷のカツラと着物の裾をたくしあげたおじさん。右手にドリンク、左手にバナナで、つまらない世の中を楽しく行こうじゃないかとドンジリを笑顔で笑い飛ばしている。


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白戸さんがバンブーロッドを持って来てくれた。また新しいことにチャレンジしてくれていてうれしい。近いうちに紹介します。

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小板橋伸俊(アンクルサム/群馬県安中市松井田町)

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2014年05月12日

田舎の70歳さん、80歳さんの技とパワーとイワナ釣り

「ノブちゃん、お客さんだ」

エ〜と、右側を振り向くと、私の車の後ろに軽のミニバンのシルバー色が停まった。フライマンの車ではないなと思っていたら、車から降りて私のお店に行こうとしている。あ〜、70歳さん=i愛称)だ。


せっかく見せようと思って寄ったのに


こっち、こっちと私が声をかけて呼びとめた。70歳さんが「あれ〜」とこちらを振り向いて、「小板橋さんどうしたのですか」と近づいて来た。「これから妙義山の〈カナル山の家〉に隣組の班長の引き継ぎと親睦会で、10軒分の人を連れて行かなくちゃならないんですよ。私が班長で幹事なのです」

もう午後5時40分を過ぎているのに、3月中旬で大分明るくなっていた。

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ヨレヨレのハットをかぶったままの70歳さんに、なんだか高揚感が漂っている。力強い感覚が体全体から滲み出ている。「どうしたのですか」「小板橋さん、尺物のイワナを釣ちゃったんですよ」。

へー凄いじゃないですか。いつですか? 今日です。どこの川ですか? あ〜、そこの川ですか。

「小板橋さん、一番大きかったから尺物のイワナを持って来ちゃった」

私は、あ〜あ〜、と苦笑いを浮かべてしまったかもしれない。

すると70歳さんが「小板橋さん、15cmと25cmはにがしてやりましたよ」といった。私の口からは、えらいえらいではなくて、「ありがとうございます」と言葉が出ていた。70歳さんはフライフィシングを始めてから、若いフライマンに釣った魚をキャッチ&リリースすることを教えてもらった。イワナの15cmと25cmをにがしてくれたとは、精神的にゆとりを持てるようになってくれたのだろう。年下の私がいうのも大変失礼な話だが嬉しい話だ。

なんで釣った? ウエット。すごいじゃないですか。何番? 12番。

「これから幹事なので行かなければならないので」と、可哀想だけど言うと、「小板橋さん、せっかく見せようと思ってお店に寄ったのだからぜひ見て下さい」。分かりました。ちょっと待ってね。すいません、お客さんが尺物のイワナをフライで釣って来たので、チョット見せてもらうので、少し待ってて下さい。

「ノブちゃんあわてなくて良いからじっくり見てこいや」、と隣組の人から声がかかった。すいません。

すると70歳さんがミニバンの後を開けて、無雑作に白色の中間ぐらいのビニール袋をぎゅと右手で持ち、私に「どうですか!」といわんばかりに、イワナの顔から少し下の方まで見せてくれた。

へー、3月中旬なのにいい体格をしてますね。有難うございました。今日はほんとに時間がなくてすいません。また後でイワナの写真でも見せて下さい。それにお話もたっぷり聴かせて下さい。

と言うと、さっきまでの高揚感は70歳さんから不思議と消えていた。

釣ったばかりの魚を私に見せてあげたいという気持ちが強かったのではないかと、推測する私だった。70歳さんは軽のミニバンに乗り込んで、「皆さん、待たせてすいませんでした」といって頭を下げながら、でも、とても満足という顔をして帰って行った。


もう1本いいだんベ〜


妙義山に向かう車中では、隣組の、アユ釣り60年70年の大ベテランさんたちにフライフィッシングの話をしてもどうなることやら、と思っていたら、さすが釣りの大ベテランだ。渓流のイワナ釣りの話で大盛り上がりで、アユ釣りのことは一言も出なかった。ヤッパリ皆釣りが大好きなんだな。

カナル山の家で宴会が始まった。幾日か前に隣組の小母さんが、「ノブちゃん、あそこはお肉が専門のお店じゃなかったっけ」と言いにきた。多分私はそんなことを心配して聞きに来る人がいるだろうなと踏んでいたら、ヤッパリ年寄りには肉は噛み切れないと心配していたようだ。

私は言った。「高い良質のお肉が一人前づつ出てきたら皆で貯金していたお金ではとうていたりないし、ジュース1本もつかないと思いますよ。だから肉は出ませんが、ほかには色々出ますから任せておいて下さい。

「ノブちゃん、それならいいんだけど」

と帰って行った。

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私は酒のみではない。お酒はビールと焼酎と、女性軍にはジュースかウーロン茶でOKだと思っていたら、「ノブちゃん、90歳さん≠ェお燗で飲みたいって」。女性軍も「ホットのウーロン茶がいい」と言いだした。そうだ、今はさむ〜い冬だもんな。酒を飲まない人間はそうか冬だということを忘れていた。

私は一番若い60歳で、焼酎を飲むのは70歳・80歳・90歳代のお年寄り4人だ。焼酎は1本は開かないだろうと踏んでいたら1時間もしない内に、「ノブちゃん、焼酎もう1本いいだんベ〜」。

ほんとだったらその時点でアウトだったが、そんな事もあるかと思い予算を取っておいたからよかった。ぴったんこ1円も残らず清算できた。隣組の皆さんから「ノブちゃん、ほんとにお金間に合ったのか。オーバーしたのではないか」と心配してもらえるぐらい、気持ちよく飲んで食べてくれたようだ。

田舎の70歳・80歳・90歳恐るべし。


魚がピンピン跳ねちゃってさ


次の日、70歳さん≠ェ昨日のイワナの写真を2枚持って来てくれた。

「碓氷川でヤマメが1匹しか釣れなかったんだ」
「そうそう大雪で放流日がなから後になってしまったんですよね。その日は私も中瀬橋の上からちょこっと見ていましたよ。焚火を囲んでいるエサ釣り師さんたちは皆顔なじみでしたが、70歳さんがそこにいたとは分からなかったです」

そこで70歳さんは某渓流に切り替えて午後から4時間ぐらい行き、良い思いができたのだという。

「小板橋さん、私が行った渓流は、まだ雪が私の股まで残っていましてね」
「そんな凄いところへ、1人で70歳なのに4時間も良く行ってきましたね」

何かあったらどうしようと思う感覚はあるのだろうが、その凄さを楽しんでいるようで私には到底まねできない。

写真のイワナの尾ひれに枯葉が乗っかっていたので、
「写真がもったいなかったですね」
と言うと、
「魚がピンピン跳ねちゃってさ、それどころではなかったんだぜ」

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もう1枚の写真を見ると、
「あれ、あれ70歳さんこれウエットじゃーなくってニンフじゃないんですか?」
「あーそうそう。ニンフだった」
あ〜ん、それだけ興奮していたということか。

「すぐ掛かったんですか?」
「5回ぐらいニンフを流したらヒットしたよ。竿先が物凄くまがっちゃってさ、これはデカイとすぐ感じて興奮したよ」
「どんな竿で釣ったんですか? ワカサギ釣り用の竿でフライフイッシング用に自分で改良してね」

??? 

「どんな竿だか後で持って来て見せてくれますか」
「ああいいよ」

それから70歳さんは、いつもの自転車でお店を後にした。70歳さんはよく脳味噌を使い手先を動かし運動も怠らない。いつもボ〜としている自分が恥ずかしい。


年なんか聞くなよ〜


とある展示会で、年輩者の1人に声をかけられた。

「私は色々な物を作るのが好きでね」

と、イキナリ写真を私に見せた。お城の写真で吉井のお城と信長の安土城。へぇ〜すげぇ〜マイッチャッタな。長野県の佐久にある三重の塔を五重の塔にしちゃったんだけどね。その方、─Aさんは言った。

あ、ゼロ戦だ。すいません、これゼロ戦ですか? 

「そうです。安中の宗台山からとりました」

見れば模型だとすぐ分かるが、あのゼロ戦が現在の地元に現れたらこんな感じで飛行するのではないか?と脳が勝手に妄想していた。

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「どうやってゼロ戦を飛ばしたのですか?」
「飛ばしたのではなく、景色に合わせて、家に帰って針金を切って来て、木と木に針金を通して、その上にゼロ戦を乗せた」

言われて見ないと分からないぐらい。いい感じで飛行している。

その日初めて会ったのに、すいません現物を見せていただくことはできますか? いいよ。

と、ご自宅にいく地図と電話番号を教えてもらった。次の日にはもうAさん宅を訪ねていた。

「早いね」

庭の手入れをしていた。イキナリ、「あっちに見える田んぼのむこうの家は俺が建てた家だよ」

「大工さんですか」
「そうさ、一級建築士の資格も持っているよ。…裏に回ってくれるかい。ゼロ戦はこれだよ」
「ああ、ずいぶん大きいんですね」
「車輪は障子の戸車を使っているんだよ」
「不自然に見えないですよ」
「ゼロ戦の前の所は小さい鍋の底をつかっているんだぜ」
「は〜、すごいです。あ、お城はこれですね」
「石垣はタオルで作ったんだよ。三重の塔より五重の塔の方が迫力があるだろう」

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その他にも多趣味な方だった。

「石や書もやるよ。山登りなら地元の山はどんな小さい山も全部登ったよ」
「へぇ〜、すいません、お歳はお幾つですか?」
「80歳だよ。年なんか聞くなよ、年なんか関係ないよ、楽しめればいいじゃないか」
「いや、凄すぎてつい聞いてしまいました。すいません」

Aさんにお礼を言って、お店に帰った。

すると30分もしない内に「こんちわ〜」と、さっきのAさんが私のお店を訪ねて来た。

「すごいねえ〜」と色々見て行ってくれた。

でも後のお楽しみに、奥のバンブーロッド・コーナーは見せなかった。次に来たときに、また話が盛り上がるようにと思った。


元ワカサギ竿のフライロッド


70歳さんがワカサギの竿を改良してフライロッドにした竿を見せに来てくれた。

「けっこう長いじゃないですか。1メートル80センチくらいありますね。ガイドにラインが通りづらくないですか?」
「だからガイドの中のリングを全部外したんだ」

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ラインが通りやすいようにしたんだよと、図面まで書いてくれた。「フックキーパーまでつけちゃった」。

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このケースは水道管ですか。そうそう。

70歳さんはお店の中を見回して言った。

「小板橋さん、この写真のイワナはずいぶんデカイですね」

やはり自分のイワナより大きいのは、気になるようだ。

「そうですね。この釣り人は女性なんですよ」
「ヘー、女かい」
「このイワナは40cm以上ありますよ。それも白戸さんのバンブーロッドなんです。グリップに籐が巻いてあるでしょう」
「うん」
「この大イワナはリリースして来たそうですよ」

彼女がどうせエサ釣りの人に今頃は釣られているかも知れない、と言っていたことを私は思い出した。頭の良い70歳さんだから、今度40cm以上の魚を釣ったらリリースしてくれるといいんだけどな。


漢詩の先生は80歳で


わたしは漢詩の教室へ通い始めて、もうすぐ一年になる。

漢詩の先生は80歳だがとても元気だ。昔の言葉でも最近の言葉でも、よどみなくすらすら口から出て来る。やはり持っているものが違うようで、凄みを感じる。

田舎の70歳さん、80歳さんは、なんでもまず考えついたら自分の手先を動かして、身近にある物の中から欲しい物を作りだす。その能力と精神と体力は、私からすれば参りましたと言うしかない。

ちなみに、70歳さんにはダブルハンドロッド1本とライン2本とリール2台を、アンクルサムで新品を買っていただいています。そのダブルハンドロッドを使って、犀川で大きい魚を釣り上げています。


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小板橋伸俊(アンクルサム/群馬県安中市松井田町)

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2014年03月22日

雨男と竹フェルールのバンブーロッド

私は近頃ゆううつである。長いあいだ晴れ男であったがここ2年どうも雨男になってしまった。しかも半端な雨男ではない。濡れては大変こまるような物を車で運ぶ時など、急に雲いきが怪しくなる。また、どうしても30分ぐらい雨が降ると困る時も、神がかり的にその30分間だけ雨が降る。どうして、どうしてと天を仰ぐ今日この頃です。

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ゴーシュさんが竹フェルールで物すごくいい感じのバンブーロッドを作ってくれた。ビックリするほど竹フェルールが人気が出て、お客さんに待ってもらっている状態が続いていたが、ゴーシュさんがもっとパワーが欲しいと、しばらくの間、試行錯誤が続いていた。

「小板橋さん、今までのバンブーロッドも一生懸命作ってきましたが、今度の竹フェルールバンブーロッドは大きく改良されてます。まず、バット部分がダブルビルドで芯には堅いトンキンケーンを尻栓まで入れて、その周りを淡竹で囲ってあります。尺物をヒットさせた時に尺物に負けないパワーを発揮できます」。
ゴーシュさんのセンスが光るのは尻栓からそのダブルビルドが見えることだ。まるで親亀に小亀が乗っかっているように見える。尻栓を覗くことによって自分のロッドは6角なんだと脳みそに再確認させて、脳味噌が何だかルンルン気分になるのはわたしだけだろうか?

ゴーシュさんのバンブーロッドのトップ側は淡竹だけで6角ですが、トップの先数センチは偏平にしてある。ラインがまっすぐ飛んで行くように、だそうです。あの〜笑われちゃうような質問をしていいですか? そんな形状にしたらトップがおれちゃしないですかね。と聞いてみた。

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「小板橋さん、魚がかかった後の竿は添え物みたいで、実際はバンブーロッドのバットの方に力はかかります。だからティップが扁平でも問題はないのです。試しに空いている手でバンブーロッドを持って支えて下さい」
へー、そうなんだ。
「今回はリールシートがアップロックになっています。今回はデモ用として2本、『フライの雑誌』の第100号記念号の特集に出ていた〈フラットグリップ〉仕様で作ってみました。色々な意見を聞きたいと思っています」
いいチャレンジですねと、私も早速フラットグリップを握らせて貰ったが、普段と違っていて、今までに無い手の感触だ。フライマンによって、好き嫌いがはっきり出て来るかもしれないな。

「それから小板橋さん、バンブーロッドケースなんですけど、今度はアルミケースで作ってみました」

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キャップと尻栓がこれまたお洒落で、穴が6つあいている。真中にバンブーの6角形が埋め込まれていて、外側は木がこげちゃ色でやはり6角形だ。
あの〜、これだけ改良されているとお高くなっちゃうんではないですか?
「前と同じ50,000円で良いですよ、ただしロッドケースは別売りですけど」
いいんですかそんなお値段で。私の小さい心臓はとても消費税の8パーセントのことは言いだせなかった。

宇都宮のお客さんから電話があった。
「小板橋さん、何か新しいバンブーロッドは入りましたか?何か入ったら連絡をしてくれるということになっていたはずですよね」。
あれ、すっかり忘れていました。大変申し訳ありません。今なら人気の竹フェルールがたまたま何本かあります。けしてせかせるわけでは無いのですがシーズン寸前なので、すぐ売れてしまうかもしれません。イヤラシイ言い方のように聞こえてしまうかもしれませんが、多分ゴーシュさんの竹フェルールのバンブーロッドを振ってしまったら、ほんとに買ってしまうかもしれませんよ。私も正直こんなイヤラシイ言い方はしたくないんですから。ただしお客さんがいう7‘6“ではなくて、7’3”です。お客さんと私の感覚は違いがありますから、来ておいおい全然違うじゃねいか、という可能性も充分あると思うんですけどね。
「なるほど。じゃあ、幾日に行きますね」と約束をしてくれた。
きちんと約束させておかないと、わたしが店にいなくて一日を棒に振る可能性があるお店だと、お友達から話を聞いているようだ。ほんとに、ほんとにすいません。

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今日は宇都宮からお客さんが来る日だよなあ。心配していたらなんと、雨が雪にかわってしまった。どうしよう、雨男から雪男になってしまった。私ができるのは、首筋が痛くなるほどただただ天を見上げて心配するだけだ。
宇都宮のお客さんは午前10時過ぎにはお店に来ていただくことになっている。約束の時間だ。お店の中が狭いので、外でバンブーロッドを手に持ってもらえる場所を探さなくてはならないが、どうしよう。さっき首筋が痛くなるほど天を見上げて弱ったといっていたのが天に通じたのか、そうだ松井田の八幡様の境内はどうだろう、と思いついた。高い建物の天井が高かったはずだ。あそこならバンブーロッドを振ることができる。天は不思議だ。


お客さんが約束の時間に来てくれた。事情を説明して、お客さんの4WDの白い車でお店から2分ぐらいの八幡さんに向かう。こんな田舎のフライショップまで来てもらって、いくら雪が降っているといえ、近くの八幡様でバンブーロッドを振って下さいなんていうフライショップはアンクルサムぐらいしかないかもしれません。ずいぶん心の広いお客さんで、「それ面白いではないですか」と言ってくれた。

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雪粒が大きくなった。八幡さんに着き、2本の#3の7‘3“の竹フェルールを振ってもらった。全体的の調子はこちらの方がいいですと一本を選んで買ってくれた。こんな寒い雪の中に宇都宮からきてもらって、バンブーロッドを買っていただいて有難うございますと、八幡様に私は手を合わせお礼を言った。そうしたらお客さんも手を合わせてお礼を言っていたようだ。

帰りしなにお客さんが
「小板橋さん、この辺でやきもち≠売っている所を知っていますか」という。
あの〜、やきもち≠ナは無くて、群馬名物の焼きまんじゅうではないですか? そうそうそれ。ここから車で2分ぐらいの所に1軒ありますよ、じゃこのまま車で行っちゃいますか、ということになった。

私の田舎はほんとに知っている人ばかりで、その焼まんじゅう屋さんは、私の二番目の姉の同級生がやっていて、胆っ玉母ちゃんて感じで、うちの焼きまんじゅうはその辺の焼きまんじゅうとちがって冷凍じゃないんだから美味いんだから。そうじゃなければ、こんなところで25年も焼きまんじゅう屋をやっていられないよ、といつも言っている。

お客さんに出来たての焼まんじゅうの味を知っといてもらおうと、私が1串とお客さんに1串焼いて貰った。冷凍では無い赤ちゃんのもちもち肌の柔らかさで、言うだけのことはあるな。一回だけどこかで食べたことがある、というお客さんに、お母さんが「そこと比べてうちのはどうだい」「ここのが、美味いです」「そうだろう」と言って、娘さんにお茶を入れさせた。お客さんが、
「小板橋さん、お店留守にして、大丈夫ですか」
今日は雪の中1本バンブーロッドを買ってもらったことだし、田舎のフライショップだから、大丈夫ですよ。お客さんに焼まんじゅうをおごってもらってしまった。

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焼まんじゅう屋を後にしてお店に戻る。どうも雪の中色々とご苦労様でした。するとお客さんがアルミ製のロッドケースも買ってくれて、それにお店の中をじっくり見てくれて、最近リニューアルしたばかりでサックも全部付いている、16本のハンドクラフト・ナイフに見入っている。
「私はアメリカでナイフを買いましたが、すぐ壊れてしまいました。いいですね。これ下さい」
とナイフを1本買って下さった。

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また何か面白いものが入ったら連絡を下さい、と言って帰って行った。夜のニュースで宇都宮は積雪が8センチと報じていた。無事に雪の中をご自宅に帰れたか心配です。


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小板橋伸俊(アンクルサム/群馬県安中市松井田町)

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