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小板橋伸俊(アンクルサム/群馬県安中市松井田町)
※「マルタの雑誌」は季刊『フライの雑誌』読者が対象のweb投稿企画です。
ご投稿はinfo@furainozasshi.comまで
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小板橋伸俊(アンクルサム/群馬県安中市松井田町)
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小板橋伸俊(アンクルサム/群馬県安中市松井田町)
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まさか、あれ、そうかもしれない
あ。電話だ。受話器を取ると、お客さんが近いうちにバンブーロッドを見に来たいとのことだ。あまり名前を名乗らないお客さんが多い中、名乗ってくれた。大変ありがたい、ではお待ちしていますと受話器を置くと、あれ私にしたら大変覚えやすい名字だったので、たしか最近見たような気がしたな? その時はもうお店の『フライの雑誌』を何号だっけかなと一生懸命ページを捲る自分がいた。
まさか、あれ、そうかもしれない、いやきっとそうだ。
〈アンクルサムの広告を見て、「中山道の釣旅」を読んでハマりました。小板橋さんの文章良いですね。お人柄が頭に浮かびます。私は歴史小説が好きで通勤電車内ではずっと文庫本を愛読してきましたが、30年フライフィッシングをやって、やっとバンブーロッドにこんにちはです …〉
ドウショウ〜と私の心臓の鼓動は高鳴るばかりだ。どんな人なんだろうどんなお客さんなんだろう、「中山道の釣旅」も意識して回数なんか見たことがなかったが、何と今回で99号になる。自分でもへぇ〜という感じだ。私も電車で東京に行くことがあって通勤時間帯になることも多いが、そんな中、スマホかタブレットて言うのですか?で、「中山道の釣旅」を読んでくれていると思うと、難しい言葉を知らない文章力のない私のような人間はとても恥ずかしい。
いつも思っているのだが、ほんとにフライの雑誌社さんは有難い存在である。やっと、お客さんがどんな人なのかと妄想を膨らませる日がついに終わる日がやって来た。お店の入り口の鈴が、いい感じで鳴った。いらっしゃいませ。お電話をいただいた、お客さまですかそうです。私が想像していた感じの人より、優しそうな感覚の人に見えた。それに初めてなのに、もう何十年も前からお付き合いをしている感覚を感じるのが不思議だ。
30年もフライフイッシングをやって、ついに
30年もフライフイッシングをやり、ついにバンブーロッドの世界にコンニチハーというように待ちに待ったフライマンには、やはり女神がついているのだろうか? 運がいいです。ちょうど白戸ロッドの竹フェルール・バンブーロッドの5本が全部そろったところです。お客さんは「バンブーロッドは初めてだ」と言うが、お店の中をいろいろ見た結果、竹フェルールが目にとまった様で、私もそれぞれのバンブーロッドの特徴を説明させて貰った。
結局、ノードレスの所々に焼色がいい感じで見えている白戸バンブーロッド(トンキンケーン)#2/3の7フィート2インチを選んだ。最初のバンブーロッドにしては柔らかすぎるかなと思ったが、さいわいノードレスだったので、言葉で言うのは難しいが、どちらかというと#3寄りの感覚だ。
やはりバンブーロッドは初めてでもフライを30年やっているだけに鋭い感覚を感じさせる。実はこの一本は、3、4人のバンブーロッドを持っているフライマンが、買おうかなどうしようかなと、目をつけていたバンブーロッドだった。かれこれ5時間はバンブーロッドの説明というか話をしていたようだ。
お客さんが「そうそう、たわらやの味噌饅頭を買いたいのですが」と言うので近いから歩いて行きましょうか。それに歴史が好きだと言うので、ちょっと、なにか私が面白そうな所を案内しましょうか?
「ぜひ」とお客さんも言うのでちょっとお店にカギをかけて、お客さんもカメラを持って、さっそく近所の小さい道祖神を案内した。草に隠れて分からないような道祖神だが、お客さんは気に入ってくれたようで、シャッターを切っていた。それから宗徳寺の境内を案内してすぐたわらやだ。のれんをくぐって、たわらやの若おかみがいたので「ジョイでーす」と言ってみた。
「小板橋さん、ヤダ〜ン」
すると若おかみはニヤニヤして、居合わせた女性のお客が「ナニナニ」と言っていた。実は幾日か前のお昼の4チャンネルで、ジョイという外国人のタレントが、バスを乗り継いでルーレットに矢を当ててまた次の町に行くという番組をやっていた。私はたまたま見たら、たわらやの若おかみが出ていて、味噌饅頭をジョイさんが旨そうに食べていた。ので、私はテレビを見ましたよということで「ジョイでーす」といきなり言ってみたわけです。
すると、「小板橋さん、ヤダ〜ン」と恥ずかしそうに右手を口に当てていた。味噌饅頭ありますか? あります。するともう一人の店員さんが出て来て、「小板橋さんおいくつ」と言うので「俺じゃないよ。うちのお客さんがたわらやの味噌饅頭を食べてみたいというので、二人で歩いて来たわけなんだ」と言うと、女性の定員さんが「ちょっとお味噌が出てしまったものなのですけど」と、二つ味噌饅頭を私に手渡してくれた。
若おかみが、さっと二人にお茶を出してくれた。ジョイでーす、がうけちゃったかな? 私が「味はどうですか」とお客さんに聞くと「美味しいです」と言ってくれた。お客さんが「味噌饅頭何個ください」と注文してくれた。
帰り道にお客さんが「これで家族にいいお土産が出来た」と言ったので、私が「また釣りに出る時に奥さんに気持ちよく出してもらえるのではないですか?」と言った。お客さんの笑みが何ともいい感じだった。
「私は中山道の釣旅をもう3回も読んでいます」
するとお客さんが「私は中山道の釣旅をもう3回も読んでいますから、小板橋さんの人柄はよ〜く知っていますから」と言う。ドキ。最近さぼっていませんか? ドキドキドキン〜。するとお客さんが私に「握手をして下さい」と言った。
私は慌てて、「ど田舎の親父ですからそんな握手なんていわれたことも無いし恥ずかしいな。そんな握手をして下さいなんていう人物ではないです」。でも、ということで、大変恥ずかしいが握手をさせてもらった。
お店に帰ると、もう午後3時はすぎていたかな? するとお客さんが「日釣券をください」。「エ〜。これからまさか竹フルールの白戸バンブーロッドを使って釣りをするんですか。帰りが大分遅くなりますよ。」
と言ったところで、お客さんはもうバンブーロッドを試したくて心ここにあらずだ。「小板橋さん、この辺のいい渓流を教えて下さい。」「この辺は大きい魚はいませんよ」。それでもということで、川への下手な地図を書いた。絶対帰りが遅くなりますよと念を押して、もう一つの川への地図を手書きした。いい釣りが出来ますように、と送りだした。
30年フライフイッシングをやられている方でも、いきなり竹フェルールの#2/3は大変だろうなという思いが、私の頭の中にふわふわしている。
もう午後7時近かったかな、電話が鳴った。
「小板橋さん、先ほど白戸バンブーロッドを買った者ですけど」
ちょっと嬉しそうに「最初に教えてもらった渓流で」と言うので、私は「分かりましたか」と聞くと「すぐ分かりました。それでですね、バンブーロッドに慣れるのに30分ぐらいかかりましたが、もうやめようと思っていたら、来ちゃったんですよ」「ヤマメですか?」「エエ、18センチぐらいのが」。
魚をかけられただけでも大したもんです
「よかったですね」「でも意外と距離が近くて、ぽろりと外れちゃったんですよ」「#2/3の竹フェールールを初めて渓流で使ってアワセるのは至難のワザですよ、キャステイングだけでも大変なんですから。魚をかけられただけでも大したもんです。凄い凄い。どうだったですか」「うれしいし、楽しかったです」
「魚は私の足もとを何匹も横切りました。魚はいました。いま横川のサービスエリアで電話をしています。これからそばを食べて帰ります」「遅くなると思うので気をつけてお帰り下さい」「じゃー」。
それから9日ぐらいした午後、お店に電話があった。ちょっと申し訳なさそうな声で「この間、白戸バンブーロッドを買った者なのですが」と言う。この間のお客さんだ。
「いま神流川に来ているのですが、小板橋さん、釣り始めてすぐ、27.5cmのヤマメがこの間の白戸バンブーロッドで釣れました。ロッドが弧を描いて物凄かったんですよ」。それはすごい。「#2/3の竹フェルールでは満月のようじゃなかったですか?よく取り込めましたね」。
魚とのやり取りを楽しめた、というよりは、昂奮冷めやらないという感情が、携帯電話から私にも伝わって来る。いつしか私のテンションもお客さんと一緒に盛り上がっていた。そうそう釣ったフライはなんですか。プードルです。何番ですか。#18です。
お客さんに対して嫉妬心というかヤキモチを
「それから小板橋さん。午後には31cmのヤマメを釣っちゃたんですよ」「エェーえ、ほんとですか〜? 白戸さんの竹フェルール・バンブーロッドでそんなにいい思いをしていいのですか。」と、心の中でお客さんに対して嫉妬心というかヤキモチを焼いている自分に、はっと気がついた。なんて情けない人間なんだ、いい歳をして修行が足りない。お客様申し訳ない。
「そうそう、引きはどんな感じだったのですか?」「27.5cmの方が水深があったせいか楽しかった。31cmの方は浅かったせいか意外とすんなり魚が寄って来た感じでした。フライはCDCソラックスダン#17です。小板橋さん、私は写真を100枚ぐらい魚を撮りましたよ」「エ〜。100枚ですか、ほんとですか〜」。
凄い凄い。私が嫉妬心を抱くよりお客さんは何十倍も昂奮したみたいだ。
「小板橋さん。お願いがあります。バンブーロッドを作ってくれた白戸さんに良くお礼を申し上げて下さい」と、何回も繰り返して言われた。それに「白戸さんのバンブーロッドを大切に、大切に使わせて貰います」とも言ってくれていた。
私がお客さんに「今日はいい日だから、これからまだまだ釣りをするんでしょう」と聞くと、「いつもは暗くなるまで頑張っちゃうんですけど、今日は素晴しい釣りが出来たので、もう帰ります。それから、そのうちに写真を持ってお店の方に伺います」と言ってくれた。
それから幾日かして、神流川の写真を持って来てくれた。7枚のヤマメの写真と1枚の釣れたCDCソラックスダン#17の写真が、A3サイズのクリアケースに美しく入っていた。スミスのベストに高そうなリールがあり、メインに白戸バンブーロッドノードレス・竹フェルール#2/3 7フィート2インチが、大変いやらしいいい方になるが、これで29,500円だと、だれが思うだろうか? もうホ〜ォ〜と息を呑むしかない。
後の写真が落ち着いて見られそうです。ふーう
ランディングネットの色もオリーブでベストと同系色だ。下に敷いてある生地は奥さんから借りたといっていた。木のテーブルか分からないが、重量感と厚みを感じさせる。2枚目の写真は、バンブーロッドの焼色がノードレスの斜めの所の色の濃淡と、フラッシュの光、トップ側の色の対比がとても美しい。2台のリールとアルミのフライボックス、ティムコのリーダークリッパーのブラックの使いこんであるのが添えてあるのも、にくい小物の演出だ。
ここまで見せられたらもう聞くしかないよな、「すいません、申し訳ないんですけど差しつかえなければ、どんな職業につかれているのですか?」「カタログなどの写真の関係です」「そうですよね、プロですよね」。
それを聞いて、後の写真が落ち着いて見られそうです。ふーう、プロの写真の美しさ、背景の撮り方、魚とお水と波の輝き。とてもいいものを見せてもらった。マイリマシタというしかない。CDCソラックスダン#17のフックのボディーの下のハックルのカットのさじ加減といい、こんなことをいうとお客さんに怒られそうだが、私の性格と真逆の完璧主義なのだろうか? これは褒め言葉です。
「小板橋さんと白戸さんに、私からプレゼントがあります」「な、な、何ですか?」「今見た写真はもちろんですが、ちょっと小さいですが白戸バンブーロッドと尺ヤマメのアルバムを2人に差し上げます」「え〜、いいんですか?」。
さっそく見せてもらう。オ〜、きれい。ヤマメも美しい。その場の臨場感が、明るくキラキラ輝いて私の胸に飛び込んでくる。釣り場から電話をくれたときの素直なほんとの気持ちが、プロとはいえこのアルバムに余すところなく表現されている。20頁に渡りうまく構成されている。見せられた私が今度は舞いあがっている。
最後のページに「白戸バンブーロッド・トンキンケーン・7フィート2インチ・#2/3。アンクルサムにて購入。9日後に神流川本谷へ。入渓直後に9寸ヤマメ、退渓直前には尺ヤマメを釣りました。満月状態の竿に昂奮の頂点、至福のひと時でした。我が愛竿にただただ感謝です!」と書いてくれてある。
OK、OK
今回は釣りがメインということでお店に寄ってくれたのだが、私が嬉しくてついつい長話になってしまった。また午後1時を回ってしまい「どうも話が夢中になると時間を忘れてしまい、釣りする時間を削ってしまいました。申し訳ありません」と言うと、「小板橋さん、何を言うんですか。私はまだまだ話たりません」。でも釣りする時間がと、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。今日も日釣券を買って、渓流に出かけて行った。いい釣りが出来ますように。
またお客さんのことだから電話を入れてくれるかなと思っていたら、けっこう遅くなって電話が鳴った。
「小板橋さん、最後の方で21cmのヤマメが釣れました」。私は「この近くには神流川本谷の様な大きいヤマメはいないですけど、21cmはまあまあいい型ですよ」「楽しかったです。今ウェーダーを脱いでいるところで写真も撮りました」。
やー、良かった、良かった。気を付けてお帰り下さい。
私も大阿呆でおだてりゃ木にのぼる方で、さっそく用も無いのに白戸さんに電話を入れて「お客さんが白戸さんの竿でいい釣りが出来たので、そのお礼にと20ページもあるとてもきれいなアルバムを白戸さんにプレゼントしてくれました。私が預かっていますから」と言った。
すると白戸さんらしく電話の向こうで、素直に照れて嬉しそうにしている笑顔が見えるようだ。
白戸さんは言った。
「12月に何本か竹フェルールを持って行けると思います。小板橋さん、その時また竹を取りに一緒に行ってくれますか」。
OK、OK。
フライの雑誌102号に広告を出した白戸ロッドの竹フェルール5本が全部完売してしまった。イヤラしく思われたら申し訳ないが白戸さん、凄い。12月に竹フェルールが何本かまた入荷します。お楽しみに。
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小板橋伸俊(アンクルサム/群馬県安中市松井田町)
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